…せんだつって、あの…ネイトとか言うアレが言ってたあれ…？
「先輩ってことですか？」
「先輩は先輩じゃが、先達はそれに教師の役割も加わる。導き手、と言っても良いかも知れんのう。四国のお遍路さんにも同様の呼び方をするやはり同じような役割の人たちがおる」
先輩で…教師。
「あなたにもおるはずじゃ。自分一人の力で旅人になった、なんて奴はまずいないからのう」
どっこいしょ、と腰を下ろす。そして、にまあ…と柔らかい笑みを浮かべて見せる。
「はい」
…ああ、わたしにとってのガーフみたいなものなんだ…。
「オノレしか存在しないような世界に育った旅人でも、大抵は先達がおるものじゃ。違う世界の住人でも十分に先達たり得る」
「…はい」
こちらも、ちょっと、笑みを含んで返して見せる。未来にとってガーフは…「先輩」とか「教師」とか、そういう硬い印象ではなく…何だろう、友達の家族の世話焼きお姉さん、みたいな印象？ 時々きつい感じもあるけど、やっぱり優しく見守ってくれている、と思うし。
「その様子じゃと…あなたの先達はよその世界の者、じゃな？ 差し支えなければどんな者なのか聞かせて欲しいところじゃが…？ それぞれの世界については関係した者しか知り得ぬことも多くてな、それにはこういった聞き取りも非常に有効なんじゃて」
「それは別に構わないんですけど…」
ありゃもうお茶ないじゃん、もうちょっと持って来るか…と急須と茶碗をお盆にまとめていた阿多根先輩と目が合う。
「…ん？ あたし？ なんで？」
「その…」
ガーフのことを話す、ということは啓児の世界「バン・ハンドル」のことも話さないといけなくなる。別に止められたりはしていないのだけれど、そうなると啓児を知っている阿多根先輩の前でそういう話をしてもいいものかどうか…。
「ああ、七咲君のこと？ そっち関係ってことは知ってるよ？ どんな世界かは知らないけど」
お盆をそっと置いて…ふふ、と。しかしあっさりと言ってしまうもんである。
「だってさ、うちにはコレがいるからさ」
「コレとか言うでない、親指で差すでない」
「コレんとこ来るお客さんもほとんどそっち関係だしね。なんとなーく、分かるんだ、そういうの」
「阿多根せんぱいは…」
「みーちゃん」
腰に左手を当ててやや腰をかがめて、右手人差し指を立てて…め、とこちらもやはり世話好きなお姉さん。
「みーちゃん、だぞ？」
「その、えと…みーちゃん先輩は…」
んー、まあ、いいか、としぶしぶ？うなずいていたりする。
「旅人とか、そういうのにはならないんですか？」
「あたしが？ いいよいいよ、なんか色々とめんどそうだし。そういうのを見てるだけ、ってのも今はなんか面白そうだしね」
「こやつは昔からそうでのう。まあ、そういうのも悪くはないがの」
「まあ…ね？」
んじゃお代わり持ってくるねー、とお盆を持って行ってしまう。
「さてあなたの先達じゃが…」
「はい。…ガーフと言って…その…」
…ネコ…でいいのかな。
「それなりの旅人なら姿はどうにでもなるものじゃ。一定でない場合も多い…」
「こっちではネコなんですけど、あっちでは…女の人でした。黒い服着てました」
「『こっち』というのはここ、じゃな？」
人差し指でちゃぶ台を指す。
「そして『あっち』とは…今日子さんの世界…じゃの？」
「はい」
「すると今日子さんとは知り合いの可能性もあるのう」
「…そうなんですか？」
「それなりの旅人同士ならどこかですれ違うこともよくあることじゃ。そして縁を結ぶこともまたよくあることじゃ」
「しかし今日子さんの世界はまだまだ不完全じゃ。そんな世界に頻繁に渡っている、となると…やはりある程度の『縁』がないと難しい。お互いがよく知っておる間柄ならそういった『縁』を深めることもできる。世界との『縁』というものはの、人同士の『縁』とよく似たものなんじゃ…」
