「…ね、何かあったのかなあ？ なんか…妙なんだけど」
「知らねーよ、お前聞いてみろよ」
「やあよ、なんか…ヘンだし」
久しぶりのナンタイコウ。日差しが緩やかで気持ちいい。
今回はいつもの「まくらぽんぽん」の条件渡過で渡ってきているので、自力渡過の時のゴーストタウンのようなあの町ではない。ゲンゾーじいさんによればそれはクリエイター…つまりは母・今日子の設定が未熟なせい、とのこと。対象人物が条件渡過で渡らないと不完全な状態になってしまうのだそうな。技量がなかったりまだまだなクリエイターだとそういう世界になってしまうのはよくあることじゃ、まあ、仕方ないわいガッハハハ、と笑っていたものだったが。
渡ってきた（つまりは朝目覚めた）未来が真っ先にやったのが…隣で寝ているディクシィの顔をじっと覗き込んだのである。
そんな妙？な気配に彼女が気づいて「や、やあ…げんき…？」とか無理やりな笑顔を浮かべてピースサインなんか示してみたりすると、何度かうなずいて…今度はハリエルの顔を覗き込み始める始末。泡食ったハリエルが叫びながら簡易ベッドから転がり落ちて、階下のマリカに怒鳴られる、という一幕もあったりした。
「ねえ…やっぱり聞いてみてよ。朝からずっとあんなんじゃん？」
「そうだけど、よ…」
誰かの顔を覗き込むのに飽きた？のか今度は部屋の備品をじっくり調べ始めた。椅子をひっくり返してみたり脚を触ってみたり。テーブルを上からどんどん、と押さえつけてみては、ふむ、と納得してみたり。窓を開け閉めしてみては…窓ガラスを撫でまわしたりして。
朝ごはん行こうよ、とおそるおそるディクシィが誘ってみると。一つ、うなずいてから…今度は食堂で食器や食材とにらめっこである。腕組んで…うーむ、と唸ったりしている。
そんな未来の行動にハリエルとディクシィに皆の疑問の視線が集まるのも無理はない、のだが…どうしようもできないよねえ、そうだよなあ、と尻込みしてしまう始末。ニコやカノン、ヤッシにライカなんかも集まってくるが…どうしようもない。
「なあ、何かあったんかいな？」
しかしこの人はそういうとこ、遠慮も何もない。厨房の中を忙しく行き来しながら未来に声をかけてくる。
「え…」
「みんな不思議がっとるで？ なんや、あんたがヘンになったんやないかーって」
「…え」
そこで未来も気づいたのだった。自分に注がれる好奇と心配と興味の視線に。
「ね、大丈夫なんだよね？ 何か変な病気とかじゃないんだよね？」
久方ぶりに渡ってきたし、色々と分かったことも多くなったからどこか違うところ、変わったところがあるのかなあ…と。まずは元来はこの世界の住人ではないらしいディクシィの顔から覗き込んでみた、とか言うわけにもいかない。
「心配したぜえ？ なんか変だったからよ」
朝から元気に炒めメシをかっこむハリエル。…なんか違いはないよね、変わったりしてないよね、ととりあえず顔を覗き込んでみた…とこっちにも言うわけにもいかない。
「うん。だいじょぶ…だいじょぶ」
「ホントかよ？」
「うん。ごめんね、心配させちゃって」
「べ、別になんでもねーよ、んなこと。おら、さっさと食っちまえよ。食ったらリョンカの武器屋行くんだかんな、なんかいいのが入ってるかも知れねえから」
未来にとっては久しぶりでも彼らにとっては一晩経っただけである。
その他にも何か変わったことはないか、「こっち」と「あっち」で何か違いが出てきたりしていないのだろうか…と思って色々調べてみたのだった。家の椅子とどこか違うんだろうか？ 窓ガラスに違いは？ 食器や食材は…どうだろう…？
結果は「それほど変わらない」だった。むしろどこが違うのかさっぱり分からない。そりゃ基本的な物品の構造にそんなに差が出るはずもない。
「あー…なんだ、何が気になってたんだよ？」
「その…ね」
パンをかじる。いつもと変わらない、優しい香りの甘い麦の味。
「この世界ってさ…どうやって生まれてきたんだろう、って。なんかそんなこと考えちゃって」
あくまでも未来の他愛ない疑問の一つである。
「そりゃこう…なんかわしゃわしゃっとしたなんかから生まれてきたんだろ？」
「ちょっとハリエル？ それは違うわ？ 世界はね、この世全てにあらせられる精霊様がお造りになったのよ？ そんな曖昧な存在から生まれるわけないじゃない」
「はいはい。精霊様お疲れお疲れ」
「ちょ、な、何不敬なこと言ってんの？ 謝んなさいよ！」
「へーへー、サーセンっしたぁ」
「このー！」
とまあ、いつもの光景になっていったのだが…。
