なんだか、ちょっとした違和感。
…ディクシィは世界の成り立ちを知ってるんだ。
しかしハリエルはよく分かっていないらしい。それは…単に彼が知らないだけなのかあるいはディクシィが精霊使いだから、なのだろうか…？ そもそもその「精霊様」にしたってクリエイターである母・今日子が設定したものではない。
…なんか、その辺もあるのかな。
が…よく考えてみたら未来自身だって自分のいる世界がなんで、どうやって出来たのか…なんて知らないのである。その方が自然な気もするし、逆にそういうことまで知られている方が自然、のようなそんな気がしないでもない。
…そう言えば「こっち」のクリエイターって…存在してるのかな…。
渡ってくる前の「こっち」である。未来にとっての本来の日常。なんとなく、なんとなく…先天世界かと勝手に思っていただけど。そんなに不完全な世界でもないようだし…ナンタイコウのようにここだけ、とかそういうものでないようだし。
先天世界とは自然発生的に出来た世界のことである。作ったクリエイターがはっきりしている後天世界とは少し違った存在、とも言える。大抵の場合クリエイターの存在は不明、ということになっている。
…どうなのかな…？
ちょっと、分からない。ただ…「後天世界に見えて実は先天世界」とか、逆に「先天世界に見えて実は後天世界」なんてのもある、とガーフも言っていたから実際には未来に限らず皆もあまりよく分かっていないものなのかも知れない。
朝飯も食べ終わった、ということで大通りへ。…相変わらず人が多い。
これまではあまり気にしなかったのだけど、実は「こっち」よりももっと色んな姿をした人たちが歩いている、ということに改めて気づいたりしている。羽があったり角があったり、というほどの差異はない。カタチの上では皆ニンゲンである。けれど、雰囲気が違う人が多いような気がする。
例えば…今ゆっくりと通り過ぎて行った男性など。筋骨隆々というのはこういう人を言うのだろう、という見本のような人だったりする。はち切れんばかりの薄手のシャツの下には発達した筋肉が静かにその活躍の時を待っている…ような。未来にだってそれが見せるための筋肉ではなく、明らかに使うための筋肉だ、ということが分かる。特に武器などを持っていないように見えたが、ちら、とグローブらしきものが見えた。ディクシィと同じように格闘系の冒険者なのだろう。
あるいはちょっとぶつかっただけでもどこかが折れてしまうのではないか、というほどに細い女性とか。よくテレビなんかでやっているファッションショーに出ていても不思議はないほどに、細いし綺麗。逆に子供くらいの背の高さなのに落ち着き払った大人の表情の人が、道端で悠然とパイプをふかしていたりする。
他にも日本ではなかなか見ないような人たちがたくさん歩いている。他の国に行ったらいるかも知れないのだけれど…そういう人たちがここまで集まって来る、という場所はまずないだろう。もちろん普通（何をもって『普通』とするかは色々解釈できそうだけど）に見える人たちもたくさん歩いている。そういう意味でも雑多、である。
「なんかいいの、入ってるかな？」
「どうだろうな、こないだ行ったばかりだからなあ…あんま変わってないんじゃね？」
リョンカの武器屋に向かっているのである。
「久しぶりだなあ…」
未来にとっては、である。
「そうだっけ？ そんなに前じゃないよ？」
「あ、あはは…そう、そうだったよね…うん」
この妙な「時間のズレ」にはなかなか慣れそうもない。
大通りのちょっと奥に入ったところにある店。重そうなドアを開けると…
「あれ？ ハリエルじゃん」
いつものようにやや照明を落としてある薄暗い店内。にかっと笑いながら元気よく、よ、と手を挙げて見せたのは…
「コマカンサ？」
「うっす、ディクシィにミライも一緒じゃん。武器買いに来たん？」
…相変わらず大きいなあ…。
「ね、ねえ…ミライ…？」
…しかも…丸くてこの形…？
「ディクシィ…どしたの？ ミライ？」
…これもやっぱり母さんが…？
「うーん…ミライ？ コマカンサ、困ってるよ？ ね？ ミライってば？」
少し、かがんで胸元をじっと覗き込んでいる未来なのである。その目は真剣そのもの。ディクシィに言われて…は、とあわてて周囲を見回したりしている。
「今日はずっとこうなんだ、まあ、気にするな」
「するな、って言われてもなあ…」
