不完全な世界。
しかし、ここナンタイコウに今、自分は存在している。それは間違いない。そして…このナンタイコウの雰囲気はどうだろう？ 誰かの空想によって出来上がった「ニセモノ」の世界には到底思えない。
リョンカの武器屋は薄暗い。
手元は見える。自分の手を少し、顔の前にかざしてみる。自分の手に間違いはない…と思う。そこまでまじまじと毎日眺めているわけではないから、もしかしたらどこか違うかも知れない。だけど、感覚として、これは…自分の手だ、と言うことはできる。少なくとも誰か知らない人の手ではないだろう。
店の中を見回してみる。薄ぼんやりと武器が陳列してあるのが見える。未来の身長どころか背の高い真記の身長すらもはるかに超えてしまっている、長くて太い槍が立てかけてある。ぎらり、と薄く青い光を跳ね返す刀身が目を引く剣も置いてある。…リョンカの案内に従って皆がゆっくりと店の中を移動しているから、一番後ろを歩いている（リョンカ・ハリエル・コマカンサ・ディクシィ・未来の順）自分の前にハリエルが見終わった「一山いくら」の武器を満載してあるワゴン？が出てくる。
武器の鈍い光。それもやはりきちんと見える。触ってみればしっかりとした柄に…触れるのをためらう刀身。それは…明らかに存在している。
「…どしたの？」
くるっと振り向いたディクシィの少し、心配そうな顔。その顔のやや寄った眉毛も見える。
「ホントに…大丈夫？」
「うん、ごめんね、うん…」
…そう、みんなここにあるんだ…。
「だいじょぶ。うん、だいじょぶ」
一通り武器を見て。リョンカと談笑して…武器屋を出る。
「いやー、いい天気だねー」
小手をかざして空を見上げるコマカンサ。
「ね、次どこ行く？」
「…おいちょっと待て」
「何？ どうしたんハリエル？」
「なんでお前が当たり前な顔して一緒にいるんだよ？ 鍛冶場はいいのか？」
「へっへん、今日は休みだよん？ だから夜まで付き合ってやろう。ふむう…気にかける必要なんかないぞよ？ お礼？ いやいやそんなものまでは…」
「…誰が礼なんかするかよ。ミライ、ディクシィ、とっとと行こうぜ。今日は他のももうちっと見ておきたいんだ」
「あ、うん」
…いいのかな。
とは思ったけど。しかしやはり当たり前のようにコマカンサはついてくるのである。
次に来たのはポラリス雑貨店。いつも眠そうにしているポラリスが経営している雑貨店なのだが…。
「…寝てるな」
「うん、寝てるね」
「いつものことだけどね」
「起こしてみる？」
カウンターに突っ伏したまま眠りこけるポラリス。たしかにいつもの光景なのだけど。
「…よくつぶれないな、この店」
リョンカの武器屋とは逆にこの店は陽光がよく入る造りになっている。品物によっては日の光は厳禁なので、そういう商品は奥に棚を作ってそこへ陳列してある。それでも店内のほとんどは明るく、商品もきちっと並んでいる。ホコリもなくチリも見当たらない。相当にきちんと掃除している、と思われる。
しかしその店主は自分専用の枕まで持ち込んでカウンターで爆睡中である。
他に客はいない。ハリエルの言う通りこんな店主が寝てばかりの店なのにどうやって存続しているのか…その辺はたしかに謎なのだが、品ぞろえの良さは実はナンタイコウでも名が通っていたりする。他では手に入らない、なかなか珍しい品があったりするのでこんな店でも実は繁盛している…ということなる。普段ならもっとお客さんもいて、そうなると仕方なく？店主も目をこじ開けていたりする。今日はめったにない休息可能な日？ということなのかも知れない。
雑貨、と言うからに様々な物が売られている。それでも基本的にナマモノはなく、乾燥した商品がほとんど。香辛料や干した食材はもちろん、家庭で使うようなほうきやブラシのようなものまで扱っている。手広く商っているように見えるが、実際はそれほど品目は多くないようにも見える。ただし、こういう店はどこかに倉庫を持っていて、そっちに大量の在庫が…ということもあるのでこの店だけで判断するのは早計、というものかも知れない。その時々の状況や売り上げに応じて商品を入れ替えたりする。
「なんか、あるかな…」
「うちで使ってる器具とかさ、時々頼んでるんだぜ？」
「へえ、そうなんだ。自作できないやつとか？」
「うん。どこから仕入れてくるんだかなあ…ちょっち時間かかるけど大抵は仕入れてくるんだ。ある意味すげえよな」
あ、と未来は思いつく。
…そうだ、仕入れ…。
「ここ」しかないはずのナンタイコウで、どうやってよそから商品を仕入れてくるんだろう…？
そしてもう一つ。
「…ガトは…？ どっか行ってるの…？」
