結果から言うと。あっさりとベルホに会えてしまったのだ…「隠者」なのに。
狐狸の森はそれほど遠い場所でもないから歩いて行くのは問題ないだけど（一度は行っているのだし）、未来が心配していたのはモンスターだった。実際にやり合ってみて強くはないということはよく知っている。ただ…数が数である。大量に出てくることがあるので、そんなの自分一人で大丈夫かな…と思っていたのだ。
が、イントの一言で思い直すことになる。
「渡りの応用の一つなのです。その世界の根底を揺るがすことはまではできなくても、あり様を少しいじることくらい、できるはずなのです」
例えば「あっち」でシノノメを出して見せたりしたように。そういうこともできるのが旅人だ、と。それをやってみろ、と。
一方で
…じゃあ自分がやればいいのに。
とも思ったのだが。多分このネコ？たちはそんなこともカンタンにできそうなのに。でも多分、何言っても聞かないだろうなあ…このネコ？たちは、とほとんどあきらめの境地に至ってしまったのだった。
狐狸の森は小さな森。
ただし先ほどまで向かっていた崖からのナンタイコウへのルートとはまた違った方向だから、少し違う道を行く必要がある。要は一度ナンタイコウへ戻らないといけない。
「ちょっと、宿屋に寄っていくね」
こんなもん？背中にぶら下げたまま寄りたくないのが正直なところなのだが…。
「分かったのです。ここで待ってるのです。…早く戻るですよ？」
と、町の門に入る前に背中から降りてくれた。
宿屋に戻ってハリエルたちにもうちょっと出てくることを伝えて。やはりガト？ 何それ？ と言われて。…自分の分の朝ごはんはみんなで食べちゃっていい、ということも伝える。ハリエルが大喜びなのを見て。
…なんだか前のナンタイコウとは違ってきちゃったような…。
よそよそしい、というところまではいかない。もちろん全く違う世界に来たわけでないのは未来が一番良く知っている。町の様子はもちろん、みんなの態度も変わっていない。だけど…『ガトがいない』『でもそれを皆何とも思っていない』だけでここまで違ってきてしまうものなのか…と。そこら辺が、なんか、さみしい。
「お待たせ」
まるでネコ？のように地面に座って、垂れさがっている木の葉に、まるでネコ？のように、ちょいちょい、と前脚を伸ばしている姿を見て…本体もネコなのかな、この人たちは、とかそんなことも思ってしまう。あのネイトは実際ネコだったわけだし。
「そんなに待ってないです。では行くです。…とうっ！」
がしっ。ぶらーん。
…やっぱり分かんないなあ…。
そして狐狸の森である。…モンスターは大したことなかったのである、実際。魔物（他の世界からインベイドしてくる存在）とは違った設定、ということもあるのだろうけど、シノノメを一振りするだけで面白いように…そのうち作業じみてくるほどに…消えていく。中には『石』を落としていくものもいる。
結構大モノなのかも知れない。少なくとも未来はこんな大きくてキラキラ光ってる『石』を見たことはない。ハリエルやディクシィも大喜びしてくれるだろうし、マリカもそれなりの値段で引き取ってくれるだろう。…ガーフのとこへ持って行く、というのもアリかも知れない。何て言われるか分かったもんでもないけど。でも。
「いるですか？ そんなもの」
「…別に、いいや。…いらない」
しかしやはり数が増えてきた。いつの間にか仲間を呼んだのだろう。…気が付くと周囲をぐるりとバタッキやワンバに囲まれてしまっている…。
「何ですか、魔法とかそういうのを使ってみるです。広範囲を一気にどばーん、ばーんばーん、と」
「…使えるのかな…？ わたしに」
「旅人ならそれくらいラクショーなのですよ、ラクショー」
…ラクショー、ねえ…。
「えっと…フレイムブリーズ…」
シノノメからではない。自身がかざした手のひらから…その炎は自身が思うより広く、そして効果的にモンスターを焼いていく。無数の風船が連続して弾けるように、どれもこれも消えていく。そして…炎も森を焼くことなく空気に溶け去るように消えていった。熱気のかけらも残らない。
「はん。これで終わりなのです。さ、さっさと案内人を探しに行くですよ」
「うん…」
…いいのかな、こんなので…。
そして狐狸の森の奥、まだベルホの家に着く前。…木の後ろから、ひょい、と顔を出したのがベルホ本人だったのだ。
「あ…」
「おや。なんだかそろそろ会えそうな気がしていましたよ。お久しぶり…ですね？」
その柔らかい笑顔は変わらずに優しい。
