全部終わってベルホを狐狸の森にまで送ることになる。これでナンタイコウも元通り…とちょっと。だけ安心？してみる未来だったのだが。
ガトに入ったままのイント。やはり未来の背中でぶらーんぶらーんしながら後ろを歩くベルホに声をかける。
「そのうち旅人にでもなって、別の世界へ渡るつもりですか？」
「さて？ そこまでは？ ははは、ただ興味があるだけでしてな、様々なことに」
笑い飛ばすようなベルホ。…そういう見方もあるのか、とか思ってしまう未来。
「色々知ってみたい、あれはどうなんだろう、これは…と思いを巡らせるのも楽しいものではありませんか」
「ふん」
それでもイントは…今は見た目は黒猫のガトだけど…見たことのないようなくらい、冷ややかな顔をして見せるのだった。
「何も知らないくせに」
狐狸の森の入り口でベルホと別れて。未来はとりあえずナンタイコウに戻ることにした。
「じゃあ、ここでお別れだね」
「そうなのです。お別れなのですが」
二本足で立ち、あごに手（前脚）を当てて…視線を落とす。少し、考え込むような姿勢の黒猫。
…ガトだったらこんなポーズしないなあ…絶対。
凛々しい…というのとはちょっと違うような。多分、イントの方が若いのだろう、と。こういったネコ？たちに年齢があるのかどうかは知らないけれど。本来？のガトなら二本足で立ってはいてもこんな風にしゃっきりは立たない。
「何か引っかかっていることでもあるですか？ 旅人のケアも自分たちの仕事なのです」
「旅人だけなの？」
ベルホさんにももっと何か言ってあげれば…。
「それはそうなのです。全然知ってない連中に関わるほど自分たちはヒマではないのです」
…うわあ。
「しかもこれは仕事、ということなので少しでも何かやっておかないとメンツが立たないのです」
これくらい清々しく？言い切られてしまうと逆に呆れる気にもならない、というものではある。
「だからとっとと話すです。気になっていることがあるのなら」
…そう言われてもなあ…。
なんだか気になっていることはあるのだ。旅人はどこまで世界に関係していいのか、とか。あるいは世界はどうやって創られているのか、とか…それこそ色々あるのではある。ただ、それをいざここでさあ出せさあ話せ、と言われてもなあ…と。
「ちょっと、気になってるのは…」
「何です何なのです」
「ここって母さんが創ったんだよね？」
「そうですクリエイターはフクダキョウコ。あなたを生み出した存在なのです」
「じゃあ…ここのあるものは全部何かしら母さんが何かを思って創った、ってことだよね？」
狐狸の森の入り口には林がいくつかある。そこにはもちろん木々が茂っていて…大きな葉っぱから小さな葉っぱ、針のような葉もある。緑色をしている、とは言ってもその色調は様々。単に「みどりいろをしている」だけではなくて濃淡のある葉もあったりする。そもそも形からして全部違う。
ちょっと木を眺めただけでも色々ある。そしてここにあるのは木だけではなく…小鳥の涼やかな声とか、ゆったりと降り注ぐ日の光とか。数えきれないほどたくさんの要素がある。こんな小さな林でもこうなのだ。ナンタイコウの町の中、となると…一体どれだけのモノを創りださないといけなかったのか…。
「例えばさっき会ったベルホさんにリョンカさん。二人は兄弟なわけだけど」
「どういう意味で二人を兄弟に創ったのかなあ…とか」
するとイントは空中の帳面をぺらぺら。
「あの二人は間違いなくフクダキョウコの手によるものなのです。…もう知ってると思うのですが、たまーに他世界からインベイドしてきた存在、というのもいるですが…あれは間違いないのです」
「インベイド…ディクシィとか？」
「そうなのです。ナンタイコウを例にとれば…」
ぺらぺら…ぺらぺらぺらり。
「3割くらいはそういった他から来た存在に影響されているです」
ぱたん、と両手（両前脚）で帳面を閉じるような仕草。
「会ってみればいいのです」
「…誰と？」
「フクダキョウコなのです。分からなかったら聞けばいいだけのことなのです。旅人は渡るものなのです。フクダキョウコが『今』いるそこへ渡ればいいだけのことなのです。違うですか？」
