自分の中で何か…何かの「糸」が切れた感じがする。「糸」というのが最も正確な感触なのか…その辺も分からない。だけど、自分の中の「何か」が途切れてしまった…そんな感覚がどうしても消えない。
アレは見つからなかった。どれだけ探しても。
枕の下はもちろん、本棚も。押し入れの中も。机の下までも。どこにもなかった。
…どこに行っちゃったのかな…。
そうは思っていても夜は更ける。明日、また探してみよう…と眠ることにした。
…あ。
明かりを落としているから暗い部屋の中。街灯が窓よりも低い位置にあるのだけれど、そのかすかな光は窓へと忍び込んで来る。だから真っ暗闇というわけではない。そんな…ちょっとは見えるけれど薄暗くて静かな部屋の中。白い天井が薄い灰色に見える。
…渡ってみればいいんだ…自分で。
と、そこであることに気付いた。
…えっと…。
半身を起こして起き上がって、自分の手を見る。やはりくすんで見える…。
…どうやって渡るんだっけ。
「はよーん、みき」
「おはよー」
今日はいつもより早めに学校に来てみた。少し、寝不足。だけど自分の机のところで待っていると二人が登校してきた。
「あ、おはよ」
「どしたん？ 今日はなんか早いね」
なぜかカバンを重そうに…よいせっと机に乗せる真記。ちなみにその中身は「ヒミツだかんね」とのこと。
「ん、ちょっとね」
…まだ来てない…。
「ななさくくん？」
いつの間にかじっと下から見上げてくる…かしこ。
「え？ いや、それは、その…別にそんなんじゃ…」
「はーん？ みきー？」
カバンを正に放り出して…
「なんかあった？ んー？ おねーさんに言ってみー？ んー？」
見た目はまんま大人しそうな女子にちょっかいかけてるヤンキー姉ちゃんである。
左腕でぐるっと未来の頭まわりをホールドして、右拳で頭をぐりぐり。もちろん力はほとんど入っていない。しかし目つきのキツい真記がそんなことしてるものだから（いつものことではあるのだけれど）ここでツッコミ？のかしこが「やめよーよ、ねえ、やめよーよ」とか止めに入るのもいつもの流れなのだけど…？
「…どうなの？」
ヘッドロックされている未来の顔は下を向いている。わざわざその下へ回り込んでしゃがみ込んで膝に手を置いての…真面目な顔。
「えっと…」
いつものアレか、と思って見てた他のクラスメイト達もやや困惑気味である。
「ほら、かしこも気になるってさ。珍しー」
「…そん、なん、じゃ…ないって」
「まき」
立てた親指をぐるっと下へ回すかしこ。
「あいさ」
ふ、とイヤな笑みで応える真記。
「あー、ちょっと、さすがに、ちょっ、それ、痛いって！ あーギブギブギブ、ギブって…！！！」
「…で？ 何がどしたん？」
ようやっと解放してもらえたのだが、別の意味でまだ解放してもらっていない。独裁者のごとく椅子に座って足を組む真記の前で頭を軽く振っている未来。その背後にはかしこがぴたっと張り付いている。未来は座っているのだけど…これではまるでどころかまんま取り調べである。そのうち腰に縄でもくくりつけられそうだ…。
