「カツ丼でも取ろうか？」
「なんでよ。朝食べてきたし」
「で…どしたの？」
「分かった。転校生がらみだ。うん、そうだ。そうに違いない」
「まき…転校生じゃなくてななさくくん」
「どっちでもいいんだ、そンなこと」
ゆったりと立ち上がると、全く意味なくくるりと回って見せたりする。軸足から腰、肩先への華麗な体重移動。ぴん、と伸ばされた指先。無駄に優雅に見せようとする辺り、本当に意味がない。
「そうだろう？ マイハニー？」
差し伸べられた右手。もちろん意味はない。
……
「いいよ、ほっといて。…ね、みらい、ホントになにがあったの？」
「えっとね…」
…話してもいいのかなあ…。
「ホント、ホントにね。…ななさくくんじゃなかったら…あれでしょ、あの、あっちの世界のこと？」
かしこにしては珍しく食い下がってくる。いつもはこういう個人的？なことにまで突っ込んで来たりはしない。どっちかと言えばそういうことに突撃したがる真記を止める方だったりする。それが、今回は…額にしわを寄せ、どこか泣き出しそうな表情で未来の顔を真っ直ぐ覗き込んでくる。
「ねえ、よかったら、よかったらでいいから…話して？ ね？」
未来のことを心配してくれている、本当に心配してくれている、そういうことだ、とよく分かるのだが…。
…どうしよう。
恐らく話しても何も分からないだろう。旅人のことをそこまで知っているわけはないのだ。でも…？
「おーい、席着けー、ホームルーム始めっぞー」
チャイムが鳴る。それに合わせたようにトーダがいつものように出席簿を肩に担ぐような格好で入って来る。クラスの半分くらいが未来たちの言動をなんとなく気にしていたようだったのだが（もちろん『あっち』のこととは知るはずもない）そういうことになれば…それぞれの席へと戻って行くしかない。
「で…」
教卓について、一つ、咳払い。
「何やっとんだ、朝ヶ岡？」
「…つ…」
「つ？」
「ツッコミ待ちっす…」
かしこは自分の席に戻っている。未来は未来で考え込んだまま。で…無意味な一回転してその姿勢のままずっと待っていた真記は。
「…いいから席に着け」
「あい…」
本気で泣きながら自分の席に戻るのだった。
午前中いっぱい、かしことも真記とも話す機会がなかった。…移動教室とか、そういうのがあった、ということもある。しかし1時限目の休み時間に真記が、2時限目にはかしこが、授業が終わるなりどこかへ走って行ってしまったのだ。残った方の顔を見てみると…ささっと視線を反らして見せたりする。
…なんだろ。
気になる、と言えば啓児の姿も見えない。朝の出席の時にトーダは「あー…そっか、七咲は休みだったか…」と頭をかきながらつぶやいていた。今日は休み、ということなのだろうか。ここのところはずっと出席していたはずなのだが。
…三輪君は…？
三輪団員はいつもと変わらない様子で授業を受けている。ちょっと聞いてみようかな、とも思ったのだけど…なんとなく、恥ずかしい。と思っていたら。
「……！」
なぜか真記が息せき切って三輪団員のところに来て…二人一緒に走って行ってしまった。
…なんか…あったのかな…？
昼休み。…なぜか二人と三輪団員の姿がない。
未来は自分で詰めてきた弁当を広げることにした。…昨日の余りのコロッケにあらかじめとんかつソースをかけ回してある。こうするとじっくりソースを吸ってくれるので、良い感じになる。ただしソースをかけ過ぎるとびちゃびちゃになってしまうので要注意。ご飯の上には海苔を敷いておいた。そして…ニンジンやサトイモ、タケノコなんかの煮物。これは先守が少し前に作り置きしていたもの。そろそろ食べてしまわないと…ということで全員分の弁当に入れてしまった。
「…いただきます…」
と、食べようとしたその時。
「みき！ ごはん！ ごはん一緒に食べよう！ うん！ そうしよう！」
真記がやはり息を切らせて駆け込んでくる。
「え、うん、いいけど…」
「ここじゃなんだから！ うん！ ここじゃなんだから…中庭！ 中庭に行こ！ うん！ 行こ！」
