「…どしたの？」
「いいから！ さ！ 行こ！」
中庭は目の前の窓の下にある。お昼を食べるにはちょうどいいベンチなんかもあったりするから当然そこで集まったりする生徒も多い。
「ええと…」
「行くよ！」
真記に腕を引っ張られ、広げていた弁当を何とかしまい込み、引きずられるように教室を後にする未来だった。
「…で…」
「ふふん。真打ち登場ってね」
…なんでそんなにドヤ顔かなあ…。
中庭にはベンチがいくつもある。校舎二つに挟まれた中庭にはいくつか木が植えられてあるのだが、中に一本の桜の木がある。春先にはピンクの可愛らしい花が咲くのだが、同時に毛虫もたくさん落ちてくる。それでも生徒には人気の場所で、その桜の前のベンチは「特等席」とか呼ばれているとかいないとか。…一部では特定の日の昼休みに一番最初に座ると恋愛成就だの成績アップだの、なんかそんな願い事が叶う…とかそんな話まであったりする。
その特等席のど真ん中で足組んでるのは他ならぬ阿多根先輩である。
「いやー、みーくんが困ってるって言うからさー」
その両脇に丸で門番の如く腕後ろに回して立ってるのは真記と三輪団員である。正に門番。あえて表情を殺して虚空を見つめるその視線の先には…多分、何も、ない。
「あのー…」
「ね、かしこたちにはむりでも」
後ろからかしこが袖を引いてくる。
「あたね先輩なら…ね、はなせるよね？ ね？ そしたら…みらいもげんきになるよね？ ね？」
「ふっふっふ。その子の言うとーりだよ…」
にまあ…とほとんど悪の女幹部みたいな笑みを浮かべて見せる阿多根先輩。やや無理な体勢で右ひじにあごを乗せてたりして。さして長くもない髪を、ふぁさあ…と流そうとして、指がすっぽ抜ける。
「ん？ どうだね？ お姉さんに何でも言ってみ？ んん？」
誰かさんと同じような言葉ではある。意外とこの二人は共通点が多いのかも知れない。
…まったく。
「分かりました。話します。でもその…」
「うん？」
「とりあえず…」
…恥ずかしいから。
「場所、変えましょう」
何せある意味学校で一番目立つ場所でこんなことやってるのだ。そもそもこんな「特等席」でこんなことやってて「何かの劇か？」「練習してんだろ」「何あの子いじられてんの？」とか注目されない方がどうかしている。
…一階から二階へ向かう階段の下。ちょっとしたスペースがあるにはある。
このスペースは、もちろん階段と同じ数だけ校舎内の存在している。他は大抵が物置となっているのだが、ここだけは大きな箱が転がっているだけで正にちょっとした「スペース」になっている。
「…なんでこんなとこ知ってるの？」
「いやあ、任せてくださいっす、アネさん」
さすがに五人も入ればいっぱいいっぱいだし、ホコリっぽいのでお昼にはちょっと向かないようにも思えるのだが…
「うん、いいね。いい場所知ってんじゃん三輪君」
「あざーっす！」
とかいきなり店広げられてしまうと、なんか、言い出しにくい。未来が適当に腰を下ろして弁当を広げると…残りのメンツも自分の弁当を広げるしか、ない。
「で…みーくん。何がどうしたって？」
ひとしきり皆で弁当の中身チェック？やおかず交換までやってしまっていたのだが、一段落したところで話を切り出したのはさすがに阿多根先輩である。
「…えっと」
…これでごまかせるかと思ったんだけど…さすがに甘いか…。
真記やかしこだって自分の弁当広げながらちらちら未来の方をうかがっていたのだった。たしかにここで話さないとこんなところにまで来た意味はない…。
すう、と一回息を吸って吐く
「実は…」
と、ようやく言いかけたところで、手のひらを、ぴ、とかざす阿多根先輩。
「諸君。…昼休み終わりだ。勉学に励みたまえよっ！」
