「よく来ましたね」
「話は聞いているのですよ」
「はあ…」
こちらへ、と促される。二人同時に、こちらへ、と手で招かれる。未来から見て右側の女性が右手を、左側の女性が左手を差し伸べてくる。全くブレることのないばっちりなタイミング。…やはり双子なのだろうか。鏡合わせとは正にこのこと。
でも…なんか、どこかちょっと違いがあるような気もするのだけど…。
その「どこか」はよく分からない。表情？ 目の感じ？
招かれたのは事務所と思われる部屋。お世辞にもきれいな部屋、とは言えない。壁紙はくすんだベニヤ板だしドアノブもちょっと調子が悪かったし（少し持ち上げるようにして開けていた）。入った瞬間にほこりっぽい匂いまで流れ出てきたし。
「話はゲンの字から聞いています」
…ゲンの字…。
「ゲンゾーさんのことですよ」
お茶の用意をしてくれている。
「まあ、あの方もちょっとアレなのですけれど」
「そう。ちょっとアレなのですけれど」
…なんだかなあ…。
何だろ、この感覚。だんだんと出来の悪い人形劇でも観ているような気になってきた。二人にズレはないのだけれど…言動の端々に、何か…何だろう、こう言ってしまうと怖い気もするけど…不穏な何かを感じる…ような？ 覗き込んではいけない木のうろ穴を覗き込んでしまっているような…。
お茶は渋そうな番茶である。来客用にしては重厚な湯呑み。じんわりとあったかいそれを手にもう少し見回してみる。…少しガタついたソファが一組向かい合っていて、やや、いや、かなり年期の入った事務机。椅子が二つ。本棚には何かの資料がぎっしり。しかしなぜかもこもこしたような塊がちらりと見える段ボール箱が放り出してあったり。
「着ぐるみです」
言われてみれば…ピンクの…カバ？ サル？ の…アタマ？
「さて。わたしはこのみと言います」
「あたしはくすしと言います」
このみとくすし。変わった名前だなあ…と、つい思ってしまう。
「あの、えと…福田未来です」
「フクダミライ。なるほど」
「フクダミライ。なるほど…」
二人同時にあごに手をあて、考え込むような仕草。ふーむ、と本当に考え込んでしまっている…？
「あの…」
「分かりしました。何とかしましょう」
「そうですね、何とかしましょう」
「はい。あの、えっと、よろしくお願いします」
思わず立ち上がってお辞儀なんかしてしまう。
「そうですね。まずはこれをやってみましょう」
このみ？さん？と思われる方が左手を差し出す。思わずその手を右手で握ってしまう未来。するとくすし？さん？と思われる方が未来の左手を握り…そして二人も手を繋ぐ。つまり三人で輪っかを作るようなカタチになる。
「さあ、大きく息を吸って…」
すうう…
「吐いて…」
はああ…
「内から…外へ」
「外から…内へ」
内から…外から…
「吸って…」
すうう…
「吐いて…」
はああ…
…って、何なんだろ、コレ…？
