手紙。封筒の中から何枚か紙が出てくる。封筒、と言っても茶色の地味な縦型のものだし、中に入っているのは…丸い穴が縦に一列に並んでいる紙…つまりはルーズリーフが何枚か、といったところ。
「自分、大分前から七咲と手紙のやり取りしてるっス」
「やり取りって…」
どう反応していいのか、なんだか…迷う。
「あいつの下駄箱に入れておくッス。しばらくすると自分の方に返事が入っているッス」
…なんか…ちょっと違う方面？の人に知られると色々やっかいな反応されそうな…しかし当人の顔は真面目そのもの。
「そしてまた返事書いて入れておくッス」
「…今どき文通って。あんたそれでもコンピ研か…」
「仕方ないッス。あいつ、スマホも携帯も持ってないッスから」
未来も持ってない。たしかにこれはこれで情報交換？意思伝達？の手段としてはアリなのかも知れないけれど…少なくとも未来は真記やかしこと「文通」までしようとは思わない。ほとんど毎日会っているし、自宅で電話で話すこともよくあるし。
「それ…見せてもらっていい？」
「もちろんっス」
渡された手紙の文字は…
…なんでまたこんな文字なんだろ。なんとなく…予想はしてたけど。
定規で線を引きながら書くとこんな感じになるのだろうか。几帳面にタテ、ヨコ、ナナメと直線で構成された文字が規則正しく並んでいる。
…まあ…七咲くんらしいけど。
『こんどはボクの方がみせるばんらしい
がーふはいろいろと教えてくれるけど
それはとてもよく分かりにくい』
「…なんじゃこりゃ」
後ろから覗き込んでいた阿多根先輩。
「分かりにくいのはあんたの手紙だっつーに」
…ガーフ？
少し、気になってくる。この「がーふ」があのガーフのことなら…？
『わたるのは少しかなりだいぶどうしようもなく、たいへん
できないことの方が、多い。それはしかたないことだとがーふに言われる
なんどもなんどもなんどもとんで、はしって、わたってみる』
「あ」
やっぱり…そういうことかな…？
「何々？ みーくんはなんか分かったの？」
「やっぱり『あっち』のことなんじゃないかな…って」
「ふむ」
あごに手をあてて、少し…考える。
「じゃあうちのジジイか？ あれの出番ってか？」
「なんの話ッスか？」
「うーん、まあ、こっちのこと」
『でもこのままじゃ何もできない
何もできずにあの人を困らせてしまう
そのために何ができるのかしりたい。これはおかしなことなのだろうか…』
ここで手紙は終わっている。
…多分…渡りの訓練だ…。
あのガーフならどんどん、無理やりにでも何度も何度も渡らせる。それで身体に『渡り』というものを覚え込ませる。それは未来自身がやってきたことでもある。でも…
…でも七咲くんは…
…どうやって渡れるようになったんだろう…？
