…あーーーーーー…。
声にならない声、って本当にあるんだ、とかそんな妙？なことを実感。…落ちている？そんなはずなのに、今度はどこかからじゃ浮かび上がってきているような、下から体ごと突き上げられているような、やはり妙？な感覚が…
…エレベーター…？
そんな風に思ったのはどれくらいのことだろう。ほんの数秒のことにも思えるし、もっと長く感じていたような。1時間？ 一日？ それとももっと？ でもそれは唐突な「声」でいきなり終わりを告げる。無機質にも柔らかくも聞こえる、その「声」で。
『ようこそ。あなたの存在を確認しましたです。こちらはあなたの支援システム、登録番号FHRIUB-W-8975541、ヒオウギ。あなたの発生を歓迎しますです…』
…女の子…？
下からの突き上げはさらに激しくなって…天井とも思える「光」の中へ体ごと突っ込まれていく。
「あ…」
『さあ、これから始まる命のやり取りをぜひぜひ楽しんでもらいたいです…』
命の、やり取り…？
気が付くと森の中だった。
森の中、と言うのははるか頭上に葉っぱのある木が密集しているのが見えるから、多分、そうだろう、という程度。本当はただの木々の中、なのかも知れないし…本当にうっそうと茂る森の中かも知れない。少なくとも未来の頭の上にはかなり広い空間があって、その上に植物がたくさんある、という現状に間違いはないようだ。
「…渡れた、のかな…」
これまでとはちょっと感触が違う。世界の感触も違う。これまではどこか「欠けた」世界ばかりだったのに、ここはずいぶんと「リアル」な世界のように感じる。…そう、まるであのナンタイコウのような…。
『お加減はいかがですか？ ミライ？』
「うひゃう」
耳元であの声が。思わず飛び上がって…飛び上がって？
「えっと…誰…？」
『ヒオウギですです。あなたの支援システムです。あなたの端末です』
「端末…」
…どこかで聞いたような。支援…システム？
『はいです。あなたのための端末です』
「どこにいるの？」
『こちらに姿はないのです。装置としては、あなたの耳元に、ひっそりと』
そっと耳元を触れてみる…。
…？？
頭のヨコに細い金具のようなものがあるのは分かる。それは理解できる。でも、この感覚は…「指先」で「探っている」という感覚が、全然ない。
あるのは「手の先」で「触れている」というやや漠然とした感覚のみ。
それに今自分が置かれている状態が明らかにおかしい。景色がひっくり返っているのだ。見上げていたはずの緑色の木々が足の下になって、視線を動かしてみると今の頭の上には茶色の地面とやはり茂った枝と葉っぱがたくさん。木々の奥には道があるのも見てとれる。
…なんでそこまで見えるの…？
目の前に意識を集中してみる。周りの景色はゆっくりと元に戻っていく。緑の葉っぱは頭の上に、茶色の地面は足の下に。でも森の奥へと続くその道も見ることができてしまう。…自分の周囲までが見通せてしまう。目の前だけではなく、自分が今立っている場所の…場所？
…わたし、今…？
ようやくそこまで理解した。未来の体は空中で一回宙返りをしていたのだ。ふんわりと。そしてゆるやかに足から着地して…ちょっと伏せたような姿勢になっている。
「ヒ、ヒオウギ…さん…？」
呼びかけてみる…。
『はいです。でもヒオウギと呼び捨てにしても全然問題ナッシングなのです』
「じゃ、じゃあ…その、ヒオウギ。わたしは、今…どうなってるの？」
『？どうも何もないのです。ミライはミライなのです…？』
ああ、そういうものなのだ、となんとなく納得してしまう。…少なくとも人間のカタチをしていないのだ、今の自分は。
両手を見てみる。…そこには見慣れた「手」ではなく黒い「羽」がある。顔をに触れてみる。…鼻がある辺りにそれはない。代わりに固くて縦に平べったい「何か」が口と一緒になって前へと突き出している。
…鳥。鳥だ…。
そこには一羽の黒い鳥が呆然と立ち尽くしていたのである…。
