もしどこかの遊園地とかテーマパークにいたなら一気に人気が出そうな気もしないでもない。
未来は知らないのだが…背中から尻尾の先まで黒白の縞が通るようなタイプのリスは元いた「あっち」の世界では北の方に多く生息している。未来が住んでいるあの辺りだとペット以外ではまずお目かかれない。自然にいるとしたら無地の茶色いタイプのリスだけだろう。
「…あの」
「おい。後輩だ。挨拶したまえ。いつまでぼおっとしているつもりだ？」
ドン・ロメロと名乗るウミガメの、やや不機嫌そうな声。…その低い声にようやく反応して見せる。
「…あ、何？」
「こ・う・は・い・だ。発生した順から言えば君の方が先輩ということになる。…挨拶したまえ」
振り返ったシマリスにもやはりヘッドセット。
「あ…ボク、キャニスタ…だっけ、なんか、そんな名前みたい」
ふにゃー、と片手を差し出す。リス特有の爪のある黒い手。
「あ、ミライです。よろしくお願いします…」
こちらもやはり黒くて固い翼を差し出す。相手がリスだからこっちの翼をきちんと握り返してくれるかなー、と思っていたのだけど。いくら待っても、ぼー、と差し出しているだけで何もして来ない。
「えっと…」
「おいキャニスタ！ 何をしている！ 挨拶は基本だ！」
そう言われて、は、と前を見る。じっとミライを見て…にへら、と曖昧な笑み。
「ミライ。あーミライ。そう、ね、うん…ああ、ごめんごめん。ボク、すぐね、なんかね、分かんなくなっちゃって…ぼおっとしちゃうんだ…ごめんね」
にへら、と曖昧な笑み（それとぼんやりとしたダルそうな目）で何とかふわふわと握手を成功？させるのだった。…大丈夫なんだろうか…？
「ふむ。まだ二体か。早いようだが、訓練を開始するとしよう」
ドン・ロメロは両前脚（オールのような前脚）で突っ張るような思い切り身体を斜めに持ち上げるような姿勢になる。ウミガメは後ろ脚がかなり小さいので、人間で言うところの「きをつけ」はまず無理で、何とかやってみようとするならこうするしかない。
「ア・テンション！」
よく通る声。先ほどまでの低い声とは違う。いや、低いことは低いのだけど、通り方が全然違う。思わず背筋が伸びてしまいそうだ…。
「自分がこう言ったらすぐにこちらを見るように。これは基本だ。…とは言っても教えることはこれの他ほとんどない」
「はい」
「…あい」
「君ら二体にはコンビを組んでもらう。我が軍の機体は二体騎乗…タンデムを常としている。ガンナーとステアラーだ。どちらがどちらになるかは、また後で決める。その前に」
「互いの端末情報を交換したまえ。これも基本だ」
と、自分の頭にも付いているヘッドセットを、オールの鋭い先端で器用に示して見せる。
「はい。えっと…」
どうしたらいいんだろう、とか思っていたら
『こちら登録番号FHRIUB-W-8975541、ヒオウギですです。そちらは？』
勝手にしゃべってくれた。いつもようにヘッドセットにしか聞こえない声ではなく、外部向けの音声のようで皆に聞こえるようになっているらしい。他の端末の声も聞こえてくる。
『…こっちは登録番号JHRPOB-W-8975438、スミナガシ。ヨロシク…』
持ってる人物？に似てるのかどうなのか、かなり無口な端末？ということになるのかも知れない。
『登録番号JHRPOB-W-8975438スミナガシ、担当は初めてです？』
『登録番号FHRIUB-W-8975541ヒオウギ、そうでも、ない…』
『登録番号JHRPOB-W-8975438スミナガシ、お互いに頑張るですよ？』
『登録番号FHRIUB-W-8975541ヒオウギ、了解した…』
小さな雑音が入ったような気がする…。
『割り込み失礼。スミナガシ、ヒオウギ。今後は互いをコードネーム呼びとするように。いささか冗長になるが故に』
今度は別の低い音声…ドン・ロメロを見ると…少し、笑ったような気もする。ウミガメの幅広いクチバシのような口の端がかすかに緩んだような、でも…そんな気がしただけかも知れない。
『ヒオウギ了解ですです。スミナガシ、よろしくお願いしますです？』
『…スミナガシ了解。ヒオウギ、ヨロシク…』
『こちらは登録端末GFRIJO-M-36342コクギョウブ。ドン・ロメロの端末だ。以後お見知り置き願いたい』
「では早速ガンナーとステアラーを決めていくか」
ドン・ロメロは二人？をじっと見回す。
「ふむ。ミライの方が思い切りは良さそうだな。では君をステアラーとするか…？」
