C4やドン・ロメロと別れた後。すぐに二人？は回収されて部隊に配属、ということになる。
「ア・テンション！」
今度は女性のようだが…
「ザンパ方面作戦指揮をとります。ラ・キリメです。搭乗機を所定の場所に駐機したら、すぐにブリーフィングを行います。ヒトフタマルマルにここ、集会室に再集合」
軽く首と背を伸ばし、オールのような両前脚を張る。
「君たちの働きに期待しています。解散！」
…やっぱりこっちもウミガメなんだ…。
こっちではウミガメが上官になる、という決まりでもあるんだろうか、とかそんなことも考えてしまう。だけど、ここが本当にバン・ハンドルならどこかに啓児もいるはずで、そういうことならガーフもいる、ということになる。
一度見せてもらったことがある。ガーフは「こっち」では大型のネコだったはず。ウミガメじゃあ…なかった。と言うことはたまたま偶然が重なっただけ、なのかそれともこの地方特有のなんかそれっぽい？事情でもあるんだろうか…？
…そう言えば。
ふと。考える。
…七咲くんは…どんな姿なんだろう？
手足が自由に使えるのをうらやましがって（むしろ不思議がっていた？）こともあったから、そういう系統の動物なんだろう、とは思うけど…？
上官がウミガメでも今度のここはC4のようなリクガメの背中の小屋、といった風情ではなく。いや、ここまで連れて来られたのはやはり大きなリクガメの背、ではあったのだけれどここは結構きちんとした建物の中だったりする。少なくとも板張りの粗末な部屋ではなく、かなり天井の高い大きな部屋。
…学校の体育館みたい。
そこに大勢？の動物がひしめき合っている。まるでどこかの動物園…いや、管理の悪いペットショップのように見えないこともない。てんでばらばらに動き回っているのだから。騒然、とした雰囲気でもある。
「なんか…すごいとこだなあ…」
『集会室は大抵こんなものなのです。新兵の皆さんが集まって、そりゃあ、もう、大騒ぎ』
「みんな訓練とか…受けてるのかな…」
『ミライとそんなに変わらないはずなのです。ここでは経験が第一なんです。最低限のことだけ教えて覚えたら…まず経験。経験さえ積んでいけばいずれ道は開けるものなのです』
そうだ、と思い当たる。ここ、バン・ハンドルでは『命』の概念が「あっち」とは大分違う。失ったらそれっきり、ではない。
…失っても時間が経てば元に戻る…。
最初に割り当てられた『命』が複数。それらを全部使い切る…つまりは命を失うほど大きな衝撃や、細かいダメージを積み重ねる…と一定時間行動不能になる。しかし、しばらくするとまた『命』は復活して行動できるようになる。
ちなみにそのタイミングで啓児は「あっち」に渡ってきていた。
てことは…
再び思い当る。…えっと…わたし、どうやって「あっち」に戻ったらいいんだろ…？
まだ旅人の渡る能力が完全に復活しているとはとても思えない。そもそも「こっち」ではいつものような人間の姿ではなく「こっち」の姿に合わされている。今までとは少し事情が違っているようなのだ。そんな世界からすんなり渡れるかどうか、ちょっと、自信がない。
軽く目をつぶってみる。そして「あっち」の…そうだ、学校の、教室を…思い浮かべて…
…ひょい、と。
前にやっていた時にはこんな感触だったっけかなー、と思って、ひょい、と跳んでみようとしたのだけれど。
『ミライ？ どうしたですか？ 落ちそうですよ？』
実は今は床に立っているわけではない。ちょっと高さのある場所で、ゆらゆら。
「うん、いや…何でもないの。うん。何でもない」
…今は…多分ダメなだけ。そう、渡れない…そうなんだ…。
ところで。ここがこんなに騒然、としているのにはまだ理由がある。搭乗機、つまり自分たちが乗って来た機体も一緒なのだ。さながら自動車やバイクの見本市・ただし動物専門…と言ってもいいかも知れない。そんな市があれば、だけれど。
「ハイ。あなたたちも新兵ね？」
新兵、つまりは新たに回収された連中の搭乗機には小さな葉が二枚、つまりは双葉のマークが刻まれる。そのうち実績が上がって行くとどんどん葉っぱが増えていくんだそうだ。相当のベテランになるとうっそうと葉の茂った巨大な樹木みたいになっているらしい。
話しかけてきたのは小型のコリーのような犬と…その背に小さなネズミ？が乗っている。それぞれがインカムを付けているのはやはりそれぞれが端末を装備しているのだろう。
その搭乗機はそりのような形に見えないこともない。ただし何だかよく分からない機器がびっしりと詰まっていて重厚そうにも見える。が、風防のようなドームめいた透明な皿の乗ったそり、と言う…なかなかにマニアックな光景ではある。
「そう。…うん」
答えたのはやはり眠そうなキャニスタ。
C4から乗って来た初等機ハイルインドは彼女がそのハンドルを握っている。ミライは…と言うと風防の上に、ちょこん、と。…楽をしているのではなく。純粋に未来の手（つまりは小さな黒い翼）では押したりすることができないから。それにキャニスタがハンドル握ったっきり離してくれないのだ。
