「あたしはカリカ。ほんとはなんか他にも色々な名前が付いてるみたいだけど…めんどくさいから、カリカって呼んで？」
コリー犬らしい、短めの前脚を差し出してくる。白地に明るい茶色のぶちが、ちょっと。
「んーーー…キャニスタ…よろしくう…」
こちらはめんどくさそうに、それよりも小さな前脚を上の方に突き出して…ちょい、とタッチ。これが挨拶のつもりなのだろう。
「あ。初めまして。ミライと言います」
念のため？床まで飛んで下りて、それから右前翼を差し出す。その翼に犬の前脚の肉球を感じるのだが…。
…うーん…これは…。
結構コワイもんなんだな、この大きさの差は、とか思ってしまう。
そのままがぶり、と行かれることはないのだろうけど…なんかごくごく自然にひょい、と口の中に入れられてしまいそうな、そんな感覚に陥ってしまう。何せ相手は見上げるほどに大きく、その目はずっとこちらを（文字通り）見下しているのだから。ただ…キャニスタだってミライとそんなに背の高さは変わらないはずなのだが、別に怖がったり驚いたりしているようには見えない。動じていないだけなのか、ただ単純に何も思っていないだけなのか…。
「よろしく。キャニスタに…ミライ、ね？」
しかしそんな外見にも合わず、さばさばと砕けた口調のコリー犬・カリカなのだったりする。ある意味…違和感？
「…僕は…ヌジナ…」
と、今度は未来の背後から小さな声がする。先ほどカリカの頭の上にいた小さなネズミである。
「よろしく…」
…びっくりした…。
全然気づかなかった。二本足で立ち上がっても未来の半分は…超えるけど今度はこちらが上から見下ろすことになる。
「…だいじょぶなんですか…？」
つい、聞いてしまう。
「え？ 何が？」
「その、これだけ大きさに差があると」
ヌジナ、と名乗ったネズミはいつの間にかカリカの頭の上に乗っかっている。ここが定位置なのだろう。そのヌジナはちょっと首を傾げて足の下のカリカの顔をのぞき込む。
「…いや…別に…」
「そうね。あたしも、別に」
やや眉間にシワを寄せるように、視線だけ上に向けるカリカ。
「結構そんなもんらしいわよ？ あたしがガンナーでヌジナがステアラーだけど、特に何か問題が…てのもなかったのよね？」
他にも何組かと話してみる。体格差のあるコンビも結構いたのだが、やはりそれほど問題はない、と言う。
「…どしたの？」
キャニスタがハイルインドのスタンドを立てる。浮上型のバイク、といった観もあるこの初等機だが、こうやって床の上に固定することもできる。
「うーん…」
が・くん、と小さく揺れて、固定。
「なんか…色々だなあ、って」
「そりゃそうだよね。ボクたちだってリスと鳥なんだし。ほら、あそこのさ、うん…そう、柱のそばの、二人」
小さな黒い指が差す先には…猫が二匹。両方とも丸くなってハイルインドに似た機体の上に並んでいる。大きさも模様も計ったように一緒なのだ。
「ああいう風にさ、ほとんどおんなじだと…かえってよく分かんないよ。うん」
「そうなのかな」
「うん。どっちがどっちだか、もね。どっかに違いがあった方が…うん、やっぱいいんだよ」
二匹の猫は周囲の雑音も何も気にせずじっとしている。まるで二匹だけの世界に浸っているように。
「うん。そうなんだ…うん」
そこへ先ほどのラ・キリメというウミガメが皆を集め始める。いよいよ具体的な作戦ミーティングが始まるらしい。
「ア・テンション！」
びし、と上体を起こす。
「新兵諸君、覚悟は決まっているだろうか？ いや、決まっていてもいなくてもこれから全員作戦に従事してもらうことになる」
じっと辺りを見回していく。威圧しているつもりはないのだろうけど、やはり緊張の波は皆の顔に打ち寄せ、そして積み重なっていく。
「しかしまだ重要な作戦に参加させるわけにはいかない。残念だが諸君らにはまだ荷が重いからだ。だがそのうち任せる日も来るだろう…」
「今日これからの作戦は強行偵察任務と思ってもらいたい。場合によっては戦闘もある。初戦となる可能性も高い」
少し、間を置く。
「だが恐れるな。そして気負うな。総員、覚悟を持ちて事にあたれ。以上！」
