「あ…はい」
『何より何より。で…どうだったかのう？ うまくいったようじゃが…』
「あ、えと、その…」
…どう説明したらいいんだろ。
もやもや、なのである。この間からのもやもや。
このもやもやが未来の頭の中のごく一部から湧いてきて、それがずっとその一部を覆いつくしている。雲や霧ではなく、あくまでも「もやもや」という曖昧な、なんて言ったらいいのかよく分からない…もやもや。
実際、何がなんだか分からなくなってきているのだ。渡る、旅人、というそれぞれのフレーズにしても今回のことにしても前と同じように捉えることができなくなっている。これまでは…少なくともナンタイコウに「ぽんぽん」で渡っていた頃やガーフの特訓？に耐えていた頃はなんとなく…なんとなく「自分で渡っていた」という感覚が芽生えてきていたような気もする。そう、自分の考えで渡っていた、「あっち」にも「こっち」と同じような世界があるんだ…とごくごく自然に感じることができていたような気がする。
「その…えと」
『うん？』
でも今回はあくまでもこのみさんが「突き落とした」結果、みたいなものだったし…くすしさんの言っていた「ケンカしないといけない」の意味もよく分からない。そういう「分からない」が「分からない」を生んで生んで生んで…さらにどんどん分からなくなってきている？
「あの、その、えっと…」
『どうかしたのかの？』
…わたし、本当に渡ったのかな…バン・ハンドルに。あれは、本当は…あの二人が見せたまぼろし、とかそういうものなんじゃ…？
「その…」
『あー、もうめんどい！』
いきなり、である。
『みーくん？ いい？ これからあのスーパーに来て？ すぐに。いい？』
「え？ あの…」
『すぐに迎えに行くから。おじさんは？ 今会社？ いない？ 分かった。あたしから連絡するから。さっきーはまだ帰ってないんでしょ？ どうせ？ あっきーは…部活？ そいで家には誰もいないのね？』
「う、うん…」
『分かった。決まり！ すぐに来て。こっちで話そ。その方が早いって。…ほら、じいちゃんはじいちゃんで準備する！ 早く！ …じゃ、また後でね。いい？ 絶対来てよね？ いい？』
…今度は後ろから『キビシイのう、つれないのう』『いいから早くしろー！ ジジイー！』などと小さく聞こえてきたのだが…未来の返事も待たずに電話は切れてしまった。
…あの、わたし、阿多根先輩の家、知ってるんですけど。
とかそういうことを言い出すこともできなかったのだった。
今帰ってきたばかりだから、すぐ出かける準備も何もない。そもそも近所なのだし。少し髪をいじってから出ることにした。
昼を回って…午後になって少し経ったくらい。そう言えば朝にちょっと食べたくらいだなー…とかふと思ってしまう。
休日だからか駅前はそれなりに人が出ている、ような気もする。少なくとも毎朝学校に行くときとは大分違う。どこかゆっくりと流れているような、そんな気もする。…しかも今日はもう二度目なのだ。今回は電車に乗らないからさっきとは少し違っているような気もするけれど。
スーパーは…いつもの通り？
そう言えばこんな時間に来ることってそんなになかったなー…とか思いながら、ごくごく自然にカゴ持って中に入ると、野菜売り場の前であごに手を当てて「ふーむ」と思案中の阿多根先輩の姿が…いきなり。Ｔシャツにキャップ（というほどカッコいいものでもない…野球帽？）というラフ…でもない、やはりどこか少年のような格好。
「あ。みーくん、やっほ」
「あ、どうも…」
「早かったね。ご飯、うちで食べてくでしょ？」
「え、なんだかそれは悪いような…」
「いいのいいの。気にしない気にしない。前はよく食べてたんだよ？ さっきーやあっきーも一緒に」
…やっぱりよく覚えていない…。
「それにうちじゃあ、大抵の休みの日の昼はじいちゃんとあたしで食べてるからさ、誰かいた方がいいんだよね」
「じゃあ…お言葉に、甘えて」
「まったくもう…まだカタいねえ、ほんとに。で…何にしよっか？ 」
誰かの家で昼、というのは久しぶり…のはずなのだが。なんだか…どこかにそんな「思い出」がある…ような、そんな気分にもなってくる。
