「うん。最初から全部一人で、ってわけじゃないけどね。でも二台目からはお金が全然足んなくってさー」
だから色々とバイトもしているらしい。さすがにお小遣いだけではここまでは無理、らしい。
「そもそもはじいちゃんだったんだ。だから一台目はなんとかなってたんだけど。じいちゃんもなんかあれくらいの頃に何かで触るようになったんだけどさ」
それまではそんなもん何もなかったんだけどねー、とのこと。感覚としてはある日突然パソコンのパーツ一式持って帰ってきた、とかそんなものらしい。家族もみんなびっくりしたらしい。…それまでそういうことには無縁な一家だったのだから。
でもその縁？で高校に入った時にはコンピューター研に入部したらしい。
…とは言ってもそこまで「コンピューター」する部活でもないらしい。
「ゲーム半分、ハードとスクリプト半分、てなとこかな」
手際よくお菓子…ポテトチップスからチョコレートやら…の袋を、ざざっと開けて広げていく。自慢げ？にペットボトルの茶をコップに注いでいく。
「すくりぷと？」
「プログラムみたいなもん。あたしは直接は知らないけど卒業生には今もそっち関係でばりばりやってる先輩とかいるんだってさ」
システムエンジニアとかゲームプロデューサーとかもいるみたいだよ、と。
「さ、食べよ？ しばらくしたら焼きそばできると思うからさ」
「う、うん…」
って…ここでお菓子とか食べてていいのかな…。
食べてるうちにゲンゾーじいさんが上がってきた。手には焼きそばの大盛り。
大皿に盛られたそれは見た目はフツーの焼きそばに見える。
「食べてみてよ。ジジイの手作り。うまいからさ」
「ジジイは余計じゃ」
小皿に取り分けて、一口。
夜店の焼きそばだ。そうとしか思えない。何をどうやったのかふんわりとしてしかし歯に当たる感覚が強くて心地いい。ソースが大胆に麺と絡み合って、さらにキャベツと豚肉のうま味もにじみ出てきている。夜店だと作り置きしてあることも多いから、そうでもない場合もあるけれど…これは明らかに作りたて。だからこれまでに食べたことのある「夜店の焼きそば」感をさらに上回って…
…わああ…
「おいしい…」
そんな言葉しか出てこない。
「そうじゃろうそうじゃろう。…昔はこればっかりやっておったからな」
むん、と力こぶを作って見せる。あんまり盛り上がらないけれど。
「じいちゃん、遊園地で焼きそば係だったからね」
「…そんな係ないわい。それでも…あの頃はそんなもんだったかも知れんな」
首に巻いていた手ぬぐいで顔をくるっと拭く。
「…ふう、どっこいしょ…」
確認するように手で床を軽く探って…ゆっくりと腰を下ろす。
「いかんな…やっぱり立ち仕事は腰にくるわい。…大したことはしてないのになあ…はは」
阿多根先輩が差し出したお茶を一気に飲み干す。
「ああ…冷たいのう…歯にしみる…」
「ヘンなの。お茶くらいいつも飲んでるじゃん」
「そう言うな。こういう大仕事の後の一杯は格別なんじゃ。これがビールならまたさらに格別、というやつじゃ」
「昼間っから飲もうとしないでよ？ 今はあんま飲んでないけどさ」
「最近は時々、とかそんな程度じゃぞ？ 美咲。森谷のヤブに慎め、と言われておるからの」
「ヤブとか言うなっての」
「ははは。まあ…飲まんでも楽しいことはいっぱいあるからな」
「これもその一つじゃ」
パソコンの黒いハコ？を軽く叩いて見せる。
「ちょっとした縁があってな。もっとも、ワシよりも美咲の方がハマっちまったようじゃが」
「結局じいちゃん組まなかったもんね」
「そうじゃなあ…なんだかんだで美咲が組むのに任せちまったわい。それを見てるのも、まあ、また楽しいわい」
「あの」
ゆっくりとハコ？を撫でさする姿に思わず声が出た。
「ちょっとした縁って…どんなのですか？」
