「なんなの、と言われて一言で言い表せるくらいなら、苦労せんわい」
そこで未来も思い出した。
…わたしたちが神でも悪魔でもロボットでもその目的を達成するのに何の関係もないわ？ そうじゃなくて？
そう言えばこのみさんにそんなことを言われたのだった。
…あなたが一人前の旅人に…自分の力だけで渡れるようになったら、わたしたちの本当の正体を教えてあげる。それでいいかしら？
そんなことも言われたような気がする。
だからなんとなく。なんとなくそれで一段落ついてしまっているのだった。未来の中では。あの人たちは…そう、ただの先達さんなんだ、と。ちょっと妙な、ちょっとどこか「違う」ような、なんか「遠い」ような、そんな存在だけど。かなり厳しいことも言われたような気もするけど…まあ、そういうものかな、と。
しかし…
「気になるなあ、どうもはっきりしないってか、さ」
この人はやけに喰いつき？がいい。
「じいちゃん、なんか隠してない？ バラしたらヤバいことでもあんの？」
「隠しとりゃせんわい。隠しようもないわい」
「じゃあ、じいちゃんもよく知らないってこと？ あれだけ色々知ってるのに？」
そう言われて…軽く腕を組む、ちょっと考え込む。
「うーむ、よく知らん、というわけではない。別に誰かに口止めされとるわけでもない。だが…ふむ」
「何よ？」
「お前に話してもきちんと理解できるかどうか。そこが問題でな？」
「はーーー？ ナニそれ？ 意味分かんない」
ぷい、と横を向いて、ペットボトルのお茶をだばーっと注いで…ぐいっと一息に。
「知んない。もう」
「はは…怒られてしもうたわい」
頭なんぞかきながら…仕方ないわいなあ、とでも言いたげな苦笑い。
「あ、はあ…」
…なんかワザとそうしたような気もするんだけど…。
「で、まあ…あのお二人に会ったわけじゃが…」
「どこで知り合ったってぇのよ？」
まだ少しむくれている。
「それは…そうじゃな。それくらいはいいのかの。飲み屋でたまたま会ったのじゃ。…偶然、というやつじゃの」
偶然、の辺りだけ語意を強めてみせる。
「まこと縁とは異なものじゃのう…」
「その飲み屋って、まつや？」
「？」
「ああ、みーくんはよく知らないかな？ こっち…この商店街のさ、入り口の方にある居酒屋。居酒屋ってその並びに二つあるんだけど、入り口に近い方」
「ここに来る時に前を通る…樽か何か店の前に置いてある…？」
そう言えば阿多根先輩はよく知っているようだった。その店も、常連客っぽい人たちとも知り合いみたいだったし。
「そそ。あそこのアレがまつやって言ってね。昔っからある居酒屋。ばあちゃんもあそこで働いていたんだよね？」
すると…ゲンゾーじいさんはゆっくりと茶碗を置く。そして何度も何度もうなずく。目を閉じて、ゆっくりと…
「そうじゃ」
「今の大将は三代目なんだっけ。あの元気なおっちゃん」
「うむ。あれはあれでまた良いもんじゃ。が…二代目とあれが小学校からの先輩後輩という間柄でな。その縁もあって…働いておったんじゃ…」
その姿は今の年齢を顔のしわに刻み込んだ姿とは、少しだけ、違って見えるような気がする。ただただ柔らかい、と言うとそれも少し違うような気がする。…そこにはある意志の姿が見える、ような？ 未来にはそれが何かはよく分からない。どこか寂しげで哀しいような、でも楽しみと嬉しみにあふれているような。…少なくともただ懐かしがっている、とかそういう単純なものではなさそうだ…ということくらいは分かる。
「元々はここもあれの実家でな。ワシはここへ転がり込んだような形になったんじゃ」
「…てことは、おじいさんは元々はここの人じゃないんですか？」
「そうじゃ。やはりちょっとした縁があって、ここに来た、その時にあれに会ったんじゃ」
ふう、と一息。
「やはり縁とは異なものじゃのう…」
