curious chapter4 scene61

「んでさ」
　ポテチに飽きたのか、今度はせんべいを…ばりん。
「結局じいちゃんはなんで旅人になったのさ？」
「…興味ないんじゃなかったの？」
「ここまで来たらさ、なんかやっぱし気になるじゃん」
　…気になってきたのかな…。
　全く関心ゼロ、というわけではない、というところだろうか。

「うむ」
　それでもこちらはお茶を軽くすするだけ。それも悠然と。まーた始まったな、この孫は、とかそんな風に内心では苦笑しているのだろう。
「あのお二人に会ってから…うむ。それで…な」
　今度は天井を見上げる。そっと…見上げるだけ。しかしその表情は…？
「まあ…成り行き、みたいなもんじゃ。やっぱり縁は異なもの、じゃのう」

「はーーーー？」
　思い切りコケて見せる阿多根先輩。
「ここまで散々引っ張っといて、それ？」
「色々あったんじゃ！　色々と」
「その色々を知りたいっての。ねえ？　みーくん？」
「ん、まあ…」
　…話したくないのかな…本音では。

　なんとなく未来にはそう見えた、ような気がした。本当はそうでもないのかも知れないけども。ただただめんどくさくなったのかも知れないけれど。でも。
「そういうことなら、それでも…わたしは、それでも…いいかな、って」
「みーくんがいいならいいけどさ。みーくんがいいなら」
　不満たらたら、と言ったところではある。

「それよりもお嬢さんのことじゃな」
　未来は焼きそばが半分くらい盛られたままの皿を持ったまま。ちょっとだけ、その皿が揺れた。
「そそ。ジジイよりもみーくんだよ？」
　こっちはすでにせんべいの袋を空にしてしまっている。そしてチョコレートの箱を空けようとしている。…まだ食うか。
「ん？」

「わたしは…」
　焼きそばの皿を、そっと、畳の上に置く。
「ふむ？」
「どうしたら…いいんだろう…って」
「うん」
「旅人って、なんなんだろうって。ただ…渡れるだけ、それでいいのかな…って」
「でもさ。フツーの人って渡れないじゃん？　それだけでも…」
「美咲よ」

「渡りはただの手段じゃ。ただの技術に過ぎん。ヒトは歩くことができる。それは足があるから、と思っておるじゃろうが…それだけではない。『歩く』という技術を我々が持っているから『歩く』ことができる」
「じゃあ…足のない、イルカなんかでも歩けるの？　技術さえあれば？」
「あれば、の。そしてさらにいくつもの要素が揃えばイルカでも歩くことができるじゃろう。…が、美咲よ。海を泳ぐことに最も適した身体を得たイルカが、果たして無理をして陸上を歩こう、とするじゃろうか…？」

「お嬢さん。重ねて言うが渡りは技術じゃ。あなたはそれを得た。それをどういう目的で使うか。それは…あなた次第、あなたがどう望むかにかかっておる」
「……」
「望みのない技術はただの抜け殻じゃ。そこに魂を吹き込むためにも願望は必要じゃ。もう一度洗い直してみると良い。あなたの望みを。率直に」
「でもそれが何かが…」
「理想は高く、目標は低く。この際大きな理想は置いておいて、低い目標を定めてみてはどうじゃな？　そう、今、この場でパッと思い付いたその言葉。今、一番気になっていることを口に出してみるんじゃ」
「わたしが…」
「そう」

「わたしは…」