「コーキシマイ？」
『そうだ。コウキ姉妹』
…えーと。
『このみとくすし。二人だから姉妹だ。無論のことお前たちの世界で言うところの同一の存在から生み出された特定の性別の二人、というわけではないがな。あの二人からもらったのだろう？ それは？』
細い銀色の腕輪。何か文字が彫られてあるが、それは気にしない方がいい。
「ああ、あーー…はい」
多分そういうことなんだろうな、とか思っていた未来ではある。…やっぱりフツーの人間じゃ、なかったんだ。あのヒト？たち。
『元気なのか？ いや、元気、というのは違うか。明確に活動していたか？』
「そういう意味だと…はい、まあ、それなりに」
それを聞くと、ははは、と軽く笑う。
『そうか。それは良かった。眷属同士ではなかなか交流がないものだからな。良い話を聞かせてもらった…ありがとう』
「お礼言われるほどのことでも…」
『そういうものだ。では…達者でな。また来ると良い…』
ひょい、と後ろ脚だけで立って、右前脚だけを上げて見せる。こういう風に見送るのだろう？ とか言いながら。
………………。
…ふう。
自分の部屋。自分の机。そして…自分の姿。
渡る前と渡った直後に確認していた自分の手。それは今回もきちんと？自分の手をしている。腕輪もそのまま。
「うーーーん…」
大きくのびをして…うん、と一息。
…そうだ。買い物行かなきゃ。今日は…冷蔵庫に何もないから…。
エレベーターで降りて、自動ドアから外に出る。
マンションのエントランス。すぐ横に小さな公園？があって大きいけど細い木が立っている。いつものこの時間帯…放課後になって未来が戻って来るような時間帯…だと近所の子供たちとか若いお母さんと小さな子供、とかがささやかなだけど派手な色彩のブランコで遊んでいたりするのだが。今は誰も、いない。
エントランスの前は当然ながら道路になっていて、この時間帯だと結構クルマ通りはある。夕暮れ前のちょっと空いた時間。学校はどこも放課後だけど勤めに出てる人たちはもうひと頑張り、といったところで…でも主婦の人たちにとってはこれから買い出し、という頃合。皆の生活サイクルが少しギアチェンジする、そんな時間帯。
そんな微妙？な時間帯に歩道に出る…。
『やあ』
声は足元から聞こえた、ような。…いや、エントランスそばの公園には低い木が切れ目なく植え込んであって、未来の足元くらいの高さで並んでいる。その中…いや、その下から聞こえてきたような…。
『久しぶり』
辺りを警戒するように顔を出して見上げてきたのは…キジネコだった。その動きとすらっとした姿には見覚えがある。思わず駆け寄って、辺りを見回して、がしっと両肩（この場合は両前脚の付け根辺り）から掴んで持ち上げてしまう。
「え、あ、えー、その、えーー」
『とりあえず降ろしてくれないか？ その…ちょっと痛い』
『うん。変わってないね。あんたも、ここも』
ガーフは前と変わっていないように見える。買い物をとりあえず断念して戻って来た未来の部屋で…ちょん、と澄まして腰を下ろして辺りを見回していたりする。
「そりゃあ…まあ」
聞きたいことはたくさんあるのだ。あるのだけれど。
「なんで…こっちに来たんですか？」
…なぜかこんな質問しか出てこない…。
『まあ、色々あってね』
やはり澄ました顔で前脚なんぞを舐めている。
『本当はね、夢枕にでも立ってやろうかと思ってたんだけどね』
…やはり悪趣味である。相変わらず。
