『ヒーーーーーーーー！！！！！』
…まあ、そうなってしまうだろう。あわてて空へと舞い上がるしかない。
…うわ…。
街中はやっぱり怖そうなので、ちょっと外れた…森の方へ飛んでみることにする。実は、もうかなり体力が限界っぽいのだ。だから早いところ休める場所が欲しい。
木々は普通？にある。植生は…「あっち」とそれほど違いはないように見える。大小様々な太さの幹にやはり色々な枝、そして緑色の葉っぱ。種類はもちろん「あっち」とは違うのだろうけど、そこまで未来は詳しくない。でもどっちかと言うと…どことなーくヨーロッパと言うかなんかその辺？っぽい印象を受けるような気がしないでもない。日本の森林とはなんとなーく受ける印象が違う、ような気もする。
…なんだかさっぱりしてる。
混み合う木々がない、ようなそうでもないような。幹の色がやや明るめ、なようなそうでもないような。
少し、飛んでみるとようやく着陸できそうな、開けた場所を見つけた。…辺りをくるりと旋回。よし、イカの人はいないな…。
軽く羽ばたいてから、着地。…ふう。やっと休める。
…あ、そっか。
当然のことだけどこの黒い鳥の姿、これにイカの人たちは驚いていたのだった。じゃあ…いつもの姿なら…？
と、いつもの姿…登校前に姿見でいつも見ている、自分の姿…を、頭の中に思い浮かべてみる。まだまだちょっと自信がないけれど、なんか、いけそうかな…と思ったら視界がいきなり変化していく。見える高さがどんどん高くなっていくのだ。地面（これは「あっち」とそれほど変わらない茶色が中心の色合い）すれすれだった視線が…目の前の木々に近い高さにまで変わっていく。あの黒い鳥は結構小さな鳥だったので、これは元に戻っている証拠なのだろう。
軽く自分の両腕を掴んでみたり、足を撫でてみたりして。
…うん。
顔にも触れてみる。…元に戻った。でもこの姿でも結構驚かれていたから、やっぱりなんか手を考えないと…
とか思っていたのだけど。なんか…ここ…何だろ…
…甘っ。
すごく甘ったるい匂いと爽やかな酸っぱい匂い？そういうのがブレンドされた匂いが辺りに満ちている。あの鳥の時はそれほど感じなかった。でも、いざ人間の姿に戻ってみると…耐えきれないほどではないのだけど、意識するとちょっとキツい、それくらいの匂いが身体を周囲から丸ごと包み込んでくるような。
…ちょっと…厳しいかな…
無意識にうつむいて顔を、鼻を軽く覆ってしまう。…しかしこの匂い、どこかで嗅いだことがある…？
…あ、これ…チョコレートだ。
甘い匂いの正体はそれだろう。そしてもう一つの、酸っぱい匂いは…
…ミカン…？
オレンジ？ グレープフルーツ？ なんだかそんな系統の匂いなのは間違いなさそうな気がする。となると、柑橘系のチョコレートの匂いが辺りに満ち満ちているのか、と言えばそれともまた違うような。それぞれの匂いは独立していて混じり合ったりはしていないようだ。
どこかにそんな工場めいた施設…は見当たらない。そもそも上空を飛んでいた時にもそんな物は見えなかった。と言うことは…
…そういう世界なんだ、ってことかな。
こういう匂いに満ちている、それが当たり前ということなのだろう。
少し、慣れてきた。人間なら時間が経てば匂いには慣れていくものだったりする。
…よし。
いやでも、この格好のままで街中に戻るわけにいかないわけで。じゃあ…
…そっか。
一番目立たない方法、それは同じような格好をすることである。ここでなら…
…えっと…
イカ、である。えっと…どんなのだっけ、えっと…ぐにゃぐにゃしてて、えっと…足が10本あって…えっと…？
頭巾みたいのがあった記憶はある。だけど、そこまでよく見ていない。別にこういう生き物が怖い、とか、嫌い、とかそういうことはない。食材としてよく使って触っているのだ。ただ…細かいところまではよく覚えてなかったりする。丸のままを目にする機会がほとんどなかった、ということもある。「こっち」のイカの人たちだってよく見たりはできなかったのだし。
…えっと…
…こんな感じかな？
とりあえずイメージを頭の中に描いてみる…。
