…あれ…？
誰かの話し声が聞こえる。何を…話しているんだろ…。
…わたし…どうなったんだっけ…？
話し声は…三人くらい？ そんなところだろうか。うっすらと目を開けてみる。
「お。やっと目が覚めたか。ったく手間かけさせやがってよお！」
横になっている未来の頭をそのままぐりぐりと。もちろんその声に悪意はなく、顔に満ちているのは笑みである。
「あ、あの、その」
「帰還の腕輪がきちんと発動したみたいね。良かったわ、たまに失敗して世界の狭間に永遠幽閉、なんてことになるらしいからそうならなくてホント良かった」
こちらの笑みは…何やら含んだ笑み。
…あー…相変わらずだな、このヒトたちは。
よ、と身を起こして軽く髪の毛を直してみたりする。ここは…あの事務所の古ぼけたソファの上、のようだ。ちょっとほこりっぽい。
『あー、その、なんだ。…世話になったね』
そして足元の方から三人目？の声。
『礼を言うよ。…ありがとう』
「ガーフ…？」
『ああ、そうだよ。悪かったね』
ぷい、と横を向くキジネコ。…こっちも相変わらずだ…。
『おかげであの子も救えたからね。そこだけは礼を言っとく』
…七咲くん？
ソファは組になっている。長椅子二つが向き合った形になっている。ちなみにこのみさんとくすしさんは未来が半身を起こしているソファの後ろに立てっていて、ガーフはその足元。くすんだ色合いのやはり古ぼけた背の低いテーブルを挟んだソファで眠っているのが…
…七咲くんだ…。
「心配すんな。きちんと生きてる。ただまあ、ちょっと眠っているけどな。そのうち目を覚ますだろうよ」
くすしさんはわざわざ反対側のソファに回ってまで啓児の頭をぐりぐり。
「こいつも頑張ってたもんな。なあ？」
『否定はしませんが…ね』
「あらあら。先達としては複雑ってとこ？」
このみさんもわざわざ未来の足元の方へ廻って…キジネコに顔を近づける。
「それとも…さみしいの？ 先達として、じゃなくて…？ うふふふ…」
『そういうのじゃ、ありませんから』
未来の背中とソファの背もたれの間に、潜り込んで行ってしまう。…くすぐったい。
…そう言えば。
「なんで、わたしだったんですか？」
ぴく、と背中のネコの動きが伝わってくる。
「あの世界、なんでわたしだったんですか？ 別に、ガーフが渡っても問題なかったんじゃ…？」
ぐりぐりぐり。さらに背中とソファの奥の方へと潜って行ってしまう。
「わたしだって楽に勝てるような世界だったのに…？」
…あれ？
「そりゃあ、なあ。ありゃ…無理だろうよ。こいつみたいに名うての旅人にも弱点はあるってこった。なあ？」
『………』
「たしかに、あれは無理よねえ…ガーフちゃんじゃ」
『…………』
「何のこと…ですか？」
「猫の苦手なもんってなんだ？」
にやにや。まるでどこかのなんとかって猫の笑みである。にやにや。
「えっと…」
たしか…柑橘類とか…水とか？ それとも…
未来の背中の後ろから、ぷはっと顔を出す。
『だって、だって、怖かったんだよ？ あんなにいっぱい、いっぱい、さあ！ あんな恐ろしいものが…さあ！』
…イカか。
食べなくても怖いものは怖いということらしい。
