『そういうもんさ』
「…全然分からない」
『そのうち分かるさ』
…そんなもんなのかなあ…。
ガーフはもう少し啓児を待つ、と言う。未来も待ってようかな、とか思っていたのだが…
『え？ あんたはお帰りよ。明日もなんかあるんだろ？ 色々と。知らんけど。さ、帰った帰った』
なぜか強引？に追い返されるような形でその小さな遊園地を後にすることになってしまったのだった。
時間としては夕方より少し前、といったところ。これより少し早い時間帯だと子供連れの若いお母さんとか、ちょっとした休憩を求めるサラリーマンとか、そういった人たちが来ていることもよくある。が、ここまで時間が進んでしまうとそういった人たちは来なくなってしまう。
逆に夕方くらいになると未来くらいの年齢（実際にはもうちょっと年上）の人たちがゆっくりしに上って来たりする。それくらいになると売店のサインドイッチは売り切れてしまっていて、コーヒーくらいしかなかったりするのだが。
…ほんと、人、いないな…。
この時間帯は狭間の時間、とでも呼ぶべきか。未来の他には…売店のおばちゃんと、カゴのおじさんくらいだろう。もちろんガーフもいるのだろうけど、いそいそと事務所に戻っていってしまったから姿は見えない。
…あ。
出入口近くのベンチに、誰か、いる。…女の子？ いや、そこまで子供じゃない…のかな？
様子をうかがいながら（我ながらなんか変質者っぽい、とか思いながら）近づいてみる。…本を読んでいるのだろうか。もう少ししたら暗くなってくるからそういうのも無理になるのかな、でも電灯あるし…とかそんなことも思うのだけど…。
…女の子じゃないか…な？
近づいてみて分かったのだけれど、むしろ未来よりずっと年上の女性である。服装も最初はどこかの制服か、思ったのだけれどそんなものではない（そもそもスカートでもない）。それなりに長く社会人やってる人の着慣れた印象を受ける。ただ…背は低そうだし童顔というやつなのだろうか、なんだか幼く見えたのだけれど…
「だあれ？」
ふ、と顔を上げる。目が合う。
「あ、あの…」
「あら。初めまして。珍しい方ね」
にっこりと浮かべる笑みは、未来より年齢を重ねて重みを知っている表情である。未来のような年齢の人間にはまだ出来ない顔でもある。
手にしていた文庫本をカバンにしまう。
「何度かここの事務所に来ている方…よね？ 学生サン？」
「あ、はい…」
「わたしは明子。大曾木（おおそぎ）明子。あなたは？」
「未来…福田未来、です…」
「未来サンね？ よろしく」
手を差し出してくる。…思ったより…いや思った通りか…握ってみると小さな手である。
タイトなパンツルックに丁寧に着こなしたジャケット。
…大人な人だ…。
なんでこんな人が女の子に見えたんだか、となんだか自分の目を疑いたくなってくる。ショートの髪型がそう見えたのか、それとも疲れてるのかな…。
「座らない？ ちょっとお話できないかしら？」
少し身をずらしてベンチに手を差し伸べる。
「えっと、あ、はい…」
おずおずと腰を下ろす。
「おじゃまします…」
「やだ。そんなにかしこまらないで。ずっとお話してみたかっただけなんだから」
「は、はあ…」
「ね」
顔を近づけてくる。
「あなた…旅人サンよね…？」
