…あれ？
なんか…わたしのこと知ってる…ような？
そうは思ったのだけれど…。
「で、その…そのゲームのことでわたしにお話が…？」
「いいえ。これは話のついでみたいなもの。お姉さんのこと知っておいて欲しくて、ね」
「はあ」
…じゃあ、一体何の用なんだろ？
「今日はもう無理なんだけど」
ぱたん、と手にしてした文庫本を両手ではさむ。
「ね。明日か…明後日とか。いつでもいいんだけど…時間、ないかしら？」
「時間…ですか？」
「そう。ちょっと付き合って欲しいところがあるの。どう？」
…どう、と言われても…。
ついさっき知り合ったばかりの人なのだ。年上の女性、とは言え…さすがにいきなりはどうなんだろう、とか、いやでも「あっち」とかだったらこういうことあったら結構平気で時間作ったりは…いやいや、でも悪い人じゃないっぽいけど、でもなー…
「あ。そうね。これはいきなりよね。うん。そうだわ、これはお姉さんの方が失礼ね」
なんとなくホッとする。
「じゃあ、こうしましょう。明日、学校よね？ 学校で…お誘いするわ。ううん、お姉さんじゃなくて、別の人が」
…えーーーー…
別の人って誰なんですか、誰のことなんですか、とか尋ねても「ナイショ」の一点張り。あるいははぐらかされてしまう。…一体何のことなんだか…分からない。
ちょっとした発見？があったのは明子さんが「さあ、遅くなるから帰りましょ」と歩き出した時だった。…ケーブルカーの方には向かわず、園のさらに奥の方へ向かってしまうのだ。売店の前も当然のように通り過ぎてしまう。
「あれ…こっちじゃないんですか？」
「ん？ ああ…そっちもいいのだけどね…こっちもまたいいのよ？」
付いてきて、ほらほら？ と手を引っ張られるので、そのままに付いて行くことになる。奥の方、とはあの事務所の方角でもあるのだけれど、もちろん事務所に向かうわけではないようだ。まだ明りの灯っている小さな小屋（正に小屋）を横目に「こっち、こっち」と引っ張られ続ける。
「あ」
事務所の前も通り過ぎて、少し歩いた先に小さな門が見えてきた。白く塗られているそれは、古っぽい印象を受けるけど、決してさびれているようには見えない。そしてもちろんその先には道がある。
山道などではない。やはりやや古っぽいが、きちんと舗装された道路である。クルマも通れそう…とか思っていたら本当に乗用車が通り過ぎて行った。軽く坂道になっているようだけど、歩くには問題ない程度のなだらかな道。
「少し先にバス停があるの」
未来は最寄りの駅名を聞いていて、そこから歩いてケーブルカーの発着場まで歩いて来たのだった。しかしバスでもここに来ることはできる、とのこと。
「住宅地なのよ、この辺は」
ケーブルカーが発着している辺りは住宅地、と言うよりどっちかと言えば商店街の外れ、といった印象だった。でもこっちの道は住宅地に接していて、子連れのお母さんなんかはこっちから出入りしているのだ、とか。
…考えてみればあんな小さなカゴに小さな子抱えて乗る、というのはなかなか大変なことになりそうである。
ケーブルカーで出入りするのは駅の方から来る二人連れとか一人でのんびりしたい人なんかが多く、上の道からは子連れの人たちやサラリーマン人たちが昼食で来たりすることが多い、とのことである。上の道の方が歩きやすく、住宅街とは言ってもさらに抜けて行けばまた別の駅の近くに出る。
「…その駅って」
未来がここに来る時に降りる駅とはまた別の駅で、線も違う。が、未来の家の近くの駅とは乗り換えがうまいけばそう遠くはない位置にある駅だったりする。ここに来る方法も一つではない、ということである。
「違うところから帰るのも…悪くないでしょ？」
「はあ…まあ、たしかに」
ちょっと違う雰囲気ではある。たしかに。
