そんなことのあった翌日。
「おはよ、みーくん」
いつものように電車とバスで登校して来て、さて、と机に向かった時。どこからともなく…待ち構えていたように…阿多根先輩から声がかかったのだった（学年によって階が違っていて、未来たちは一階、阿多根先輩は三階。…いつから登校してきていつからここで待っていたのだろう…？）もちろんいつものように途中で真記と会って一緒に登校してきているので、「？」な顔をしている真記もそばにいる。
なお、かしこはトーダに用事を頼まれてここにはいない。下駄箱のところで他の生徒数人と一緒に「おてつだい」を頼まれてしまったのである。
「あ。おはよ…」
「ね、今日の放課後さ、時間ある？ 大丈夫？」
「…えっと…」
「昨日さ、明子おばさんに会ったんでしょ？ で、あたしが伝達役請け負っちゃったもんだからねー…こうしてお誘い申し上げている、ってわけ」
…えっと…
少し、記憶を手繰り寄せてみる。えっと…
「なんすかなんすか？ うちの未来になんか用っすか？」
「うん。まあね」
「困りますなあ！ うちに先に話を通してもらわないと！」
わざとらしく腕を組んで、見下ろすような見下すような仕草。実際、背の高さで言えば阿多根先輩より真記の方がはるかに高い。
「…それは失礼。ただねえ…」
しかし存在感の量と言うか質と言うか、そういったものはまた別の話である。見上げるにしては明らかに余裕を含んだ笑みを浮かべ…やはりわざとらしくあちこちを見回したりして…右手を口に寄せて…良くない表情。一癖二癖ありそうな…。
「これはあんたの可愛い未来チャンにもお得なお話なんですぜ、旦那」
「…ほう…」
「悪いお話じゃあ、ありませんぜ…へっへっへ」
「くわしく。ふっふっふ」
こちらもやっぱりあまり良くない表情。
「なーにやってるんだか、ふたりとも」
よいしょ、とかしこ達がトーダの手伝いでプリントらしきものを運んできて…教卓へ、どすん、と。結構な数と量である。
「これでいいですか？ せんせい」
「おう。ありがとうな、みんな。ほんと助かった。…じゃあホームルームを…」
朝の教室の真ん中で悪だくみしていそうな、二人。
「どうした？ 阿多根？ ここは一年の教室だぞ？」
「しっつれいしゃーしたーーーっ！」
正しくウサギが走って逃げるが如く。ロケットスタートからの出入り口のドアででカーブを決めて、階段をものすごい勢いで駆け上がって行く音が小さくなっていく。…上の階でもなんやかんや言われてそうではある。
トーダが運んで来たのはこの時期では恒例？みたいなものだったりする。
「あー、別に今日すぐにってわけでもないんだが」
と、前置きして一番前の生徒に配っていく。自分が一枚取って、順繰りに後ろへ回していくのである。
未来は前から二番目（それも真ん中くらいの列）だからすぐに目の前にプリントが現れる。
…あー…そっか…。
進路希望調査票、と書いてある…。
「まだ一年だから、と思うかも知れんが…ある程度は決めておいた方がいい。まー、二年になったら本格的に進学なり就職なりを考えていくようになるからな、今のうちは…大体ってとこでもいいんだ」
どうしよっかな、どうしよっかなー…とか思っていると前から別の配布物が現れる。
…えっと…
プリントではなく小冊子のような、パンフレットのような。それが…二つ…三つ…四つ…。
「参考にしてくれ。こういう資料ならいくらでもあるからな。相談にも乗るぞ？ いつでも言ってくれ」
かしこ達が「おてつだい」に呼ばれるわけである。相当な量の資料とプリントが手元に積み上げられてしまったのであった。
