ちょっと妬けるような気がしないでもない。よく覚えていない自分の母親の知らない一面をここまで知っている他人がいる、ということに。
しばらく乗ってから…「じゃあ、ここで降りるね」と言われたのは割と大きな駅。駅前に大きなデパートやらスーパーやらがあって、ホームからもそういう大きな建物がよく見える。ここらでも色々な種類の電車が行き交う、そんな駅である。
未来がいつも降りている駅と比べると…いや、比較にはならないかも知れない。こっちは降りた時から大きな歩道橋があって、道路を見下ろすような形になる。いつも降りている駅は…そんな大仰？なことになったりはしない。ホームそのものは高架になっているけども、出入口は地上にあって電車はいつもなら見上げるものである。
だからなんかちょっと大きな買い物を…とかそんな時に訪れたりはするけども…いつもなら、ねえ？ とかそんな駅である。
いざ降りて行くと。バスのターミナルになっていていくつもいくつものバス乗り場がある。
「…あー…」
四角い巨体がゆっくりと行き交うバスターミナル。通学の時にはバスも使う未来だけど、こんなにたくさんのバスがある乗り場とはあまり縁がない。だから自然とこんな声も出てしまう。どれに乗ったらいいんだろう…とかそんなことまで考えてしまう。
「じゃあ、これに乗るからね」
しかし阿多根先輩は慣れた？ものである。よく来ているのだろうか…目当てのバス停を一発で探し当ててしまう。
目の前を何度か巨体が行き過ぎて…やがて止まる。未来たちの前に並んでいるのは三人くらいだろうか。若い人はあまりいないようだ。
「来たね」
ピ、とカードを押し当ててから…乗車。中もそんなに混んでいない。皆、それぞれが余裕で座ることができる。
行先は…公園。結構大きな公園で、休日ともなれば家族連れで賑わうのだけど…
「どこまで行くの？」
「んふふ。ナイショナイショ」
今からそんな場所へ行く、とはとても思えない。
学校帰りから直だから二人とも膝の上にカバンを置いたまま。車窓では後ろへ後ろへと景色が流れ去る。
バスは駅前の喧騒？から少しずつ逃れるように進んで行く。駅前からは車線の多い太い道路が伸びていて、いくつかのバスが前後に連なったりしていた。それも気が付くと未来たちの乗っているバスだけになってしまって…背の高いビルもいつの間にかなくなってきてしまう。どんどん人が少ない方へと進んでいるようだ。
…まあ、公園行だし。
でもどこへ行くのかは相変わらず分からない。何度か停留所にも止まるのだけど、乗って来る人はいても降りる人は、いない。
「さ。ここで降りるよ」
と言われたのは…病院？ 大きな総合病院で、名前くらいなら未来も聞いたことがある。
…そう言えばついさっきからバスの中の人たちの動きが激しく？なってきていた。未来たちのようにカード持ってる人ばかりではなく、ほとんどの人たち…それほど若くはない…が小銭を準備し始めたのである。と言うことはほとんどの人たちがここで降りる、ということになるのだろうか…。
果たして。バスは悠然と病院前の大きなロータリーに入っていく。『バス専用』と書かれた、病院入り口直前のバス停で止まる。車内の人たちはほぼみんながここで降りるらしくばたばたと立ち上がったり荷物を準備したりして慌ただしくなる。降りる人が全員降りきるまで、少し時間がかかったりもする。
いざ降りてみると…やはり病院である。それもやはり大きい。最近建て替えたとかで…白い壁も新しく、見上げるほどである。
「行くよ」
「うん」
…実は…どっか…悪いとかじゃないよね。
人は見た目によらない、とか言うし…まさか…阿多根先輩が…？
「え？ あたし？ ないない。それになんかあってもこんな大きな病院までは来ないって」
森谷先生がいるからねー、あそこには。と受付の後で笑っていたりする。森谷先生とはあの商店街の開業医で、何かあるとみんなそこで診てもらうのだとか。ゲンゾーじいさんも文句言いながら通院しているらしい。
受付で首から下げる許可証？をもらって…内科、整形外科、眼科…と色々ある中エレベーターで上へ上へと上がっていく。
「あ。いたいた。おーい」
最上階、ではないけれど。特に何科、とは書かれていない階で降りて…ベンチや自販機のあるちょっとしたスペースがあって、そこには
「あら。御免なさいね、どうしても来て欲しかったの…」
と、あの明子さんが待っていたのだった。
