見渡してみると。この病室の壁には…バイク？の写真がたくさん飾られてある。どれもこれもハンドル？が大きかったり落ち着いた配色だったりして、なんだか古そうにも見えるバイクばかり。そして窓枠のちょっとした出っ張りには未来にはよく分からないバイクの部品？か何か？がぴかぴか光っていたりする。
「姉なの。大曾木陽子」
どうぞ、と手のひらで。
「あ…はい」
近寄ってみる、枕元に。…やっぱりなんとなく明子さん似ているなー、とかそんなこと思っていたのだが…。
その瞬間。一気に引き込まれた。
足元の床が崩れた、崩壊した、という感覚に近い。もちろんそんな経験をしたことはないけれど、足元へ向かって自分の身体が一気に落ちて行く…そんな感覚。しかしそこに不思議と恐怖は感じない。
ただただ落ちて行く。それだけ。
重力による自由落下、とでも呼べばいいのだろうか。足を下に直立した姿勢のまま、一気に…！
………！
『あ。気がついた』
真っ白い小部屋。…そうとしか思えない。照明器具も何もない天井も白くうっすらと光っている、ような…。
身を起こしてみると。小さな椅子と机があって（これも真っ白）自分は白い床の上に横になっていた、というのが分かる。…しかし真っ白で何もない部屋…と思っていたら
『元気そうだね、ミライ』
自分を見下ろす小さな影。
「え…」
自分とその子と椅子・机があるともういっぱいになりそうなこの小部屋。そこに
「ディクシィ…？」
『うん。ミライ、よく来たね』
「えっと…」
ディクシィがさっと手をかざすと、小さな椅子が現れる。未来ならようやく座れるくらい。
『あちゃ、やっぱりこんなもんか…ま、いいや。座って？』
やはり白いその椅子に腰かけてみる。
「…えっと…陽子さん…ってこと？」
見た目はディクシィだからそんなに年の差は感じない。だけどこの手？の人たちは見た目と中身が違ってることが多いのは、未来もよく知っている。
『うん。そ。さて…どこから話そっか？ せっかくアキコが連れてきてくれたんだし、この機会はできる限り利用しないとね』
…あ。
「そうだ、わたし、あの病室で…」
『あの二人なら大丈夫。いきなり渡ってしまっても慌てたりしないから』
手をかざす。テレビくらいの大きさの窓？が現れて…いや現れたと思ったら不安定に、ぐにゃり、と歪んで…スマホよりも小さなやっぱり窓？みたいになって…
『ほら。ちょっと見にくいけど…何か話してる』
そう言えば何か話して、笑ってる…ような？
『良かった。二人とも元気そうだし』
「でもわたし、渡って…」
…あれ？ …わたしが渡ったってわけじゃなくて…
『そ。あたしがミライを引き込んだってわけ。ここは先天世界っぽいからね。せいぜいこんな部屋をこっそり作って…そこへ旅人引っ張り込むくらいしかできないかな』
よいしょ、と自分も椅子に腰を下ろす。
『あたしも旅人ってわけ』
「そう…なんだ」
『でもちょっと特殊かな。ほとんど覚えてないんだ、渡った先のこと。…後は…なんか時々ふわっと思い出すことがあるかな、ってくらい。それこそ夢の中で…とかそんな感じ？』
