…えーーーっと。
『あっはは。まあ、そうだよね、なんかよく分かんないよね。伝えたあたしが言うのも何だけど』
…えーーー。
『キョウコさんはね、まー…何て言うか、ね。そんな人だったから。うん。そんな人だったの』
「はあ…」
『だからミライもね、もし…もしだけど。取り戻せたら色々考えてみてよ。ね？ お願い』
それはどういう…と言いかけたその時に、みしり、となんだかイヤな音が響いてくる。あちこちから。
『あちゃー…そろそろダメかな。今回は結構持ったとは思うんだけど』
「え…？」
『この世界はバカ強いからね。あたし程度の力じゃあ、こんな部屋くらいしか作れないし、長いこと持たせるのもなかなか難しいの。だから定期的…でもないか、壊されたらまた作り直して、また壊されて作り直す、それを繰り返してんだ』
ひょい、と立ち上がって…未来の手を、そっと、握ってくる。
…小さな手、でも…。
みし、みし、みし…と部屋のあちこちから本当にイヤな、聞きたくないほど重くて苦しい音がどんどんどんどん響いてくる…。
『また、来てよ。何度でも作り直してるから。あ、でも…ナンタイコウに渡った時にはこの話、あたしにはしないでね。だって…』
…覚えてないから。ここのこと。あっちのディクシィはまた、違うあたしだから…
………！！！
「え、待って！」
伸ばした手の先には、ごくごく普通の陽の光。
病室の床に、直に寝転がって天井を見上げている。…あれ…いつ…戻って…
「あ。おかえり〜どうだった？ って…」
いつもの阿多根先輩の声…なのだが。
「どしたの？ 何かあった？」
…わたし…
「どうしたの？ なんで泣いてるの？ ね？ どうしたの？」
二人に抱え起こされた時に初めて気づいたのだった。…わたし…なんで…涙、流してるんだろう…？
陽子さんは、なんだか…微笑んだまま眠っているようにも見える。
「どう？ 落ち着いた？」
背もたれのないスツールにゆっくりと座らされて、背中にそっと手を置かれる。
「うん…」
軽く背中をさすられる。…あったかい。
「何があったの？ あたしらはそっちとかあっちとか、行けないからさ…よく分かんないし、ねえ？」
「それはそうなのよね。だから…なんか私、余計なことしちゃったのかな…とか思ったりしてたんだけど…」
「いえ。違うんです。違うんです…明子さんは悪くないんです、これは、ちょっと、その…びっくりしただけ、とかそんなものなのです、気にしないでください」
…多分、そうだ、そういうことなんだ…。
いくら個室とは言え病室であれこれ話すのは…ということでさっき缶コーヒー飲んだちょっとしたスペースに移動することになる。空色のベンチに三人腰下ろして、一息。
…そう言えば。
「あの」
「なあに？」
「どうして…明子さんはわたしのこと知ってたんですか？」
「あー、それね。えっとね…何だろね、このややこしい伝言連想ゲーム的な何か、って言うか」
「あら。さすがおじいさんっ子の美咲ちゃんね。懐かしい昔のテレビ番組のことも知ってるのね」
「…ヤメてよ、あのジジイのことなんかどーでもいいんだって」
…じゃあなんで顔真っ赤なのかな。
とか思ったけどツッコまないでおく。
「ンン。からくりそのものはカンタンっちゃあ…カンタン…かな…？」
「ちょっとややこしいかも、だけどね」
