「まずはアケハルさんにここに来てもらわないといけないのよね」
「そ。陽子さんのお見舞いってことでね」
「最初の頃はそうでもなかったんだけど、最近は…まあ、慣れてきた感あるよね？」
「そうね。姉さんに来てもらったアケハルさんを連れてってもらったり自分で渡ってもらったりして、あっちで色々聞いてもらって戻ってきてから話してもらって…ほら、姉さん意思表示できないから」
「でもやっぱなんか要領得ないことも多くてさ。結構難しいんだよね、こーいうのって。あ、それみーくんのこと言ってたのかってやっと分かったのもここんとこでさ…」
ひょい、と手を上げる未来。
「はい。みーくん」
「そのアケハルさんって…どなたですか？」
思わず顔を見合わせてしまう二人。
「そうか…そうよね、未来サンは知らないのよね…御免なさい」
「ジジイのことだよ。ジジイ。今の名前は阿多根ゲンゾーだけど元々は大曾木明治ってね。だからアケハル」
…そっか、そういうことか…
「じゃあ、旅人だからできることってことになるんですか、こういうのって」
「そういうことになるのかしら…ね。私たちはそういうことできないからね、ねえ、美咲ちゃん」
「まあねえ〜ジジイの手品みたいなのとか見てると、ああいうこともできたらいいかな、とかは思うけどね」
…そう言えば渡れるって、フツーの人とは違うんだよね…。
最近は未来も自力渡過ができるようになっているから、あまり気づかないことではある。
「自分で渡ったことはあるのよね？ それと似たようなものだったんでしょ？ 姉さんのところに行くのは？」
「えっと…」
少し、目を上げて…左手をひらひらと。右手は上下に振ってみたりして。
「その、ちょっと分かんないですけど、なんか、その…ちょっと違うような…」
「違うって？」
…ただ引きずり込まれただけ、みたいな？
自分から渡る時はまだどこかに「さあ、行くぞ」的な気持ちがあるのだけれど、さっきのはなんだかどこか違う。やはり「引きずり込まれた」感覚の方が勝っている。…それは決して不快なものではないけれど、どこかに違和感が残ってしまう。そんなミョーな感覚ではある。
自分の意思で初めて渡った、あの時ともちょっと違う。あの時は無我夢中だった、というのもあるけれど。
「やっぱちょっと説明難しいです。何て言えばいいかな、えっと…連れて行かれる感覚と自分から飛び込む感覚が違うと言うか何と言うか」
「そっか…」
「あ、でも」
「ゲンゾーさんほどの旅人なら別にここに直接来てもらわなくても渡れるんじゃ…？」
例えば電話やメールで『渡って欲しい』『これこれこういうことを聞いてきてほしい』とか頼んで結果だけを折り返し知らせてもらう、とか。そういうこともできそうではあるのだが…。
「うん。それね…以前にジジイからも同じこと言われたんだよね」
「そうなの。方法としてもっと単純に姉さんの意思を確認できるかな、と思ったんだけどね」
「？」
「なんかね、ダメだったって、ね？」
「そ。なんでか、ね」
「せかい…」
「え？」
「世界、です。あの部屋は陽子さんが創った世界そのものなんです」
「みーくん？」
「あの部屋だけが…世界」
…そういうことか…。
