ちょっと、ためらったのだけど。
「いえ。なんか、ちょっと、面白い形だな、って」
「そうか」
…言わない方がいいよ、ね？
なんだか楽しそう？に話してるハリエルとニコを見ても、そう思ったのだった。
…前に、ゲンゾーさんが言ってたっけ。
『世界にはそれぞれを構成している要素があるんじゃ』
『はあ…』
『それは一つではないし、それだけで推し量れるもんでもない。あるものは非常に重要なもんじゃし、あるものはとてつもなくつまらんもんだったりする。しかし、それでもな、お嬢さん。どれもこれもその世界を成り立たせているモノ、ということに変わりはないもんじゃ』
『はあ』
『その構成しているモノをつぶさに観察してみることじゃ。すると、あらぬところと繋がっていたりする』
『…はあ』
『ははは。まだまだ分からんようじゃのう。まあ、ええわい。そのうち分かるようになるじゃろうて。本当に世界というのは面白くて奇っ怪なものなんじゃ…』
何の、どんな時だったかは覚えていない。ただ…今は、なんとなく、理解できる…ような気がしてきている。
もう少し見ていていいですか、とさっきの赤い光を帯びた石を手にして…やはり目に力を込めてみる。
…うん。
よく眺めて見ていると、石からは糸？のような光が伸びているのが分かる。それはまるで絹糸のような、はかなげでモロそうにも見える。
そっと触ってみたのだが。感触は全くない。本当にただの「光の糸」なのだろう。ただし「糸」だから通常の光線のように一直線ではない。あちこちたるんで曲線を描きながら、だらん、と垂れさがっていたりする。
その糸はどこかへ繋がっているらしい。じっ…っとその先を探ってみる。…土の中？ 潜っていってる？
他の石も見てみる。…よーく見てみるとやはりそれぞれからうっすらと淡い光の糸が伸びているのが見える。じゃあ、他の、光ってない石は…？ と庭を見回してみると。こちらは別にそういうこともないようである。タダの、フツーの石として転がっている。
…ふむ…？
そしてその光の糸はさらにどこへと繋がっているのか、と言うと。…よく見てみると土の中と空と、二つの方向に伸びている石がそれぞれある。
…下と上ってこと？
強く光ってたあの石は土の中へと繋がっている。石を引っ張るように軽く動かしてみると、たるんでいた糸が一瞬伸びきって…すぐにまたたるむ。土の方へ近づけてみると…たるみ続けるのではなく一定のたるみを維持して長さを調整している、ようにも見える。
上の方、つまりは空と繋がっている石も似たようなもの。こっちはかなり薄くて細い糸なので、目に力を思い切り入れないとほとんど見えない。でもやはり土の中へ伸びている光の糸と同じようにも見える。
「…何だろ」
「どうかしたのか？」
「いえ。何でも…」
「だーかーら。精霊石だって。世界は精霊様がお作りになって精霊様が今もお見守りになってるんだから！」
「はあ？ ンな見えねーもんあてになっかよ。魔法石だ魔法石。この世界には魔法力が満ちてんだ。それを封じ込めたのがこの石だ」
「…やれやれ。まただな」
ヤッシが、よっ、と立ち上がる。
「また…ですか？」
「うむ。魔法使いと精霊使いはそれぞれがそれぞれの術にプライドを持っているからな。ちょっとしたことで…これだ」
仕方ない、とでも言いたげに両手を広げて見せたりする。
…そう言えば…。
あのネイトが言っていたことを思い出す。…魔法はそもそもこの世界に在ったもの。精霊は別の世界からインベイド、つまり侵略…と言うとおどろおどろしいが、要はよそから持ち込まれた術・概念だ、ということである。つまりはこの世界のクリエイターである未来の母・今日子が魔法を作り…精霊魔法は別の何かがこの世界に招き入れたか置いていったか、ということになる。
…それぞれの力が宿ってる、とかそういうことなのかな…。
ま、いーじゃんいーじゃんそんなのどっちでも、とか何とかニコが二人の間に入ってなだめたりしている。ふん、どうせ石は石なのだからな、とヤッシが鼻で笑っていたりする。
…何気なく見てたらフツーの石なんだけどな。
目に力を入れたりしないで、普通に見ていたらどれもこれも本当にフツーのただの石、なのである。
