「なんだお前もいたのか」
「お前とはご挨拶だな」
この小柄な女性はコマカンサ。町はずれにある鍛冶場で働いている。何かと言うとハリエルと張り合っていて…仲がいいんだな、と未来は思っている。
「あ。コマカンサだ。やっほー」
「おおう、ディクシィ。相変わらずちっちゃいなあ」
頭に手を置いたりしているが…。
「あっはは。あんまし変わんないじゃん」
実際、二人の身長はそれほど変わらない。実は三人の中では未来の身長が一番高かったりする（一部の数値だけはコマカンサがトップだけど）。
「皆様いらっしゃいませ。しかし…」
結構な人数が店に来ているのだ。店主である彼にとってはなかなかに忙しい状況。
「いやいや気にすんな。そこら辺ぶらぶら見てるからよ。落ち着いたら魔法力補充して欲しいんだ」
「分かりました、ありがとうございます。…ああ、お客様。その短剣でしたらこのお値段で…はは、包丁でしたらこちらにございます…」
「うっし。じゃあ俺ちょっくら見て回ってくるわ。この人だかりだから…俺は一人で回ってくるか」」
「うん。そうしよっか。しばらくしたらここで待ち合わせってことで」
「おーう。じゃあな」
軽装とは言え防具や大剣と剣二振りも担いでいるハリエルはたしかに単独行動の方がいいのだろう。軽く手を上げて群衆（そこまで大がかりじゃないけど）に紛れて行く。
「でも…ほんと忙しそうだね」
「あたしも久しぶりに来てみたんだけど…こりゃ大変だね。ここまでってあんまりないからね」
「じゃあ…ミライ？ ちょっと短剣でも見てみる？ それともあたしみたいにグローブでも使ってみる？」
「お。そりゃいいね。何だったらあたしが素材とか集めてきてやろうか、どうだい？」
「何言ってんのコマカンサ。ここはあのリョンカの武器屋だよ？ 最上級の精霊石が揃ってるに決まってるじゃない」
「あ、そりゃそうだわな。あっはは、じゃあ装飾とかそういうのをだな、っておーい…？」
………
「…ミライ？」
「え、あ、ごめん、何？」
「おいおいボーっと天井見上げてどうした？」
「いや、えっと…ははは」
…まさかそこに浮かんでる女の人と話してました、なんて言えないよね…。
ちら、と上を向いて小さく手を振る。すると、相手はにっこり笑って手を振り返して…煙のように姿を消してしまう。
分霊、と呼ばれているらしい。
この世界に精霊と呼ばれる存在がいるのは常々ディクシィが言っている通り。…地のダリオス 水のミナオリア、火のファリアイ、風のサリウスの四つ。精霊使い（正確には精霊魔法使い）は基本的に四精霊全てに「承認」されることでその力を借りる、ということになっている。が、その存在そのものを認知することはほとんどできない。ディクシィによれば「ある日突然天から教えが降ってくるの」とのことだったのだが、それが一体何なのか、どういうことなのか、よく分かってはいなかった（そういう話をすると大抵の場合は引かれてしまうものである、アブナイやつ、と）。
…それがアレってことなんだ…。
未来も前にディクシィにその話を聞いていた。その時は、ふーん、そうなんだ、そういうもんなんだ、とか思っていた程度だったのだが。しかしこの店に来てその考えは一変してしまった。
…何コレ。
店に入った瞬間に正直にそう思ってしまった。ここんとこずっと気になっていた「石から伸びる光の糸」である。少し目に力を込めるように、意識を集中するとうっすらと見える、とかそんなものだった。「魔法装具」となってしまった武器には糸が見えず、光がこもって見える。しかしこの店にあふれる商品からは光が満ち満ちていて、それはまぶしいくらい。そして店の奥からは無数の光の糸…いや光の縄みたいなものが大量にあふれてきている。
何度か目をこすって、わざと見ないように…体から力を抜いてそれこそボーっとしてみて何とか意識しないようにしないと、正直…目が頭がかなりキツイ。
…ふう。
ようやく気分が落ち着いたかな、と思ったのはコマカンサと会った頃合だろうか。…ふと店の奥から伸びている光の縄には二種類あるのに気づく。上に向かっているものと、下に向かっているもの。下へ向かっているのは床を貫いて土の中へと伸びている…のだろうか？
上へ向かっている一本にそっと触れてみる。…結構固いなー、やっぱりこっちの方がしっかりしてるのかなー、とか思いつつずずいっと視線を上げていくと…浮かんでいる彼女と目が合った。
『え？』
『え？ 私が見えるの？』
『私は火の精霊ファリアイ様の分霊の一つ。あなた…何者なの？』
