二人？は声を出さないで会話している。頭の中で軽く思考を浮かべるだけで、意志が通じ合ってしまうようだ。
『精霊使いでもないのよね？ それなのに…？』
『いや。まあ…あはは、そういうとこなんです』
『へえ…珍しいわね。精霊使いでもその予定もなさそうなのに私が見えるなんて』
ホントなんかすごい子ねえ、へえ、そういう子もいるんだ、とか妙に感心されてしまったのである。
…よく見るみると…。
あっちこっちにいるのである、この分霊のヒト？たち。
特にこの店には良質の『石』がたくさんあるから、ということなのだろうか。外見からすれば男の人と女の人、年取った人から子供のような人…人じゃないのだけど…色々な存在？が十人くらいだろうか、浮かんでいる。
そのほとんどは何もしていない。これだけ人間がいる店内なのだが、お互いが不干渉と言うか存在を完璧に無視し合っている、と言うか。ただただ浮かんでいる、ような。…そしてそれぞれに四色の光がまとわりついているのに気づいた。黄色・青・赤・緑色。違う色に対しては反応が薄いのだけど、同じ色同士だと何やらおしゃべりをしていたりもする。
目の前のお姉さん？には赤い光がまとわりついている。
…火…。
『そう、そういうこと』
…あー、そっか、思ったことそのまま伝わっちゃうんだ…』
『かなり高度な精霊使いなら私らが普通に見えるらしいけど、ね』
…ディクシィ…。
当人はコマカンサと何やら楽しくおしゃべり中。
『この子は…まあまあってとこね。もうちょっと修行を積めば私らを認識できるかも、だけど』
『でも精霊使い名乗ってるってことは最低一回、都合四回は私らを見たはずなんだけどな』
『そう言えば、なんかそういう話でしたね、告知…とか承認とか』
精霊使いなら必ず一度は受けるものである。要は分霊による『あなたはこれから精霊使いを名乗れます』宣言みたいなもので、四精霊それぞれの分霊からその都度受けることになる。つまりはほとんどは四回、ということだが（まれに手違い？で四回に満たない、というケースもあるにはある）…一番最初に告知してくれた精霊を盲信的に信奉してしまうことが多いらしい。
そりゃあ…天からいきなりヒト？が降って来てあなたの力を認めます、これからはどんどん力を借りてくださいね、なんてやられたら一気に傾こうというものではある。
『ね、この子の得意なのってどの精霊様の？』
『うーん…火…ですかね…じゃあ、あなたが？』
『まさか。分霊そのものはこの世界に無数に在るのよ。正確な数はファリアイ様でも他の精霊様でもご存知ないんじゃないかしら？』
『ところで修行って何するんですか？』
『色々ね。滝に打たれたり火を渡ったりとか』
『へー…』
『じょ、冗談よ冗談、真に受けないでよ。フツーに精霊力高めるために術の回数こなすのよ、とにかく。そこら辺は、何事も一緒、でしょ？』
『たしかに、まあ…そんなもんですね…』
少し、宙に浮いている分霊たちに動きが出てきたような気がする。ゆらぎ…とでも言ったらいいのか、なんだかそわそわしてきたような。一つには店内の客数が減ってきた、というのもあるかも知れない。さすがのリョンカも、ふう、とかため息ついてしまったりしている。
『ねえ』
『はい？』
『私らが見えるあなたになら伝えてもいいのかな、って思っちゃうんだけど…こういうこと言ってもいいのかよく分からないのだけど…』
『はあ』
『ちょっと大変なことになっちゃってるみたいなのよ、ここのところ』
…えっと。
『驚くのも無理ないし、多分よく分からないかも、だけどね』
『いえ。…どういうことなんですか…？』
すると分霊のお姉さんはちょっと考え込んでしまう。
『その、ね。何て言うか、ね。力が弱くなってきた…みたいな気がしてるの』
『精霊様ですか？』
『ううん。こう言っていいのかどうかもよく分からないけれど…世界？ この世界？ ここのところの…全部？ みたいな感じでね。…何だろうね、よく分かんないね、これだと。ごめんね』
