なぜ存在していないか、と言えばそれは作っていないから。
この世界はそもそもは未来の母・今日子が創った世界。10年位前に子供たち…先守・未来・明夫のために創った、ということになっている。
こういう立場の存在を『クリエイター』と呼ぶこともある。
どんな世界にも必ずクリエイターがいるか、と言えばその辺は不明だったりする。世界はモノによっては出自が明らかではないものもあって（色々な分類方法がある）そうなるといつクリエイターが創ったか、なんてなことももう分からない。いや、分からないこともないけれど…そこまで分かってもあまり意味がない、という向きも強い。
「えー、そうなんですか、そちらの方はボクトウガからいらしたんですか、すごいなあ…」
今、未来たちがいる町の名は「ナンタイコウ」海に囲まれた大きな島の一部、ということになっている。そしてボクトウガ・トウキコウ・サイデンという町が海の向こうにはある、ということになってはいるが…。
…存在するはすがない…。
この世界にはナンタイコウしか存在していない。それはクリエイターである母・今日子が何らかの事情で世界の作成を途中でやめてしまったから。だからナンタイコウの港から出港しようとすると必ず海は荒れているし、それでも無理に進もうとしてもいつの間にかナンタイコウに戻ってしまう。そういうことになってしまっている。
「ああ、そっか、だからこれだけ人がいるのか」
「なーるほどな、道理で混むわけだ」
が、そういう真の事情を知らない、ただのこの世界の住人であるハリエルとコマカンサにとってみれば、他にも町があってそこからたまーに人が来る、それは当たり前のことで疑うことでもない。なんかの事情で今はあっちからナンタイコウにたくさん人が来てるのかー、そっかー…てもんだったりする。しかし
…てことはこの人たち全部インベイドして来たってことかな…？
未来はさっきの火の分霊のお姉さんが言っていたことを思い出す。どこか、大変なことになってるって…そういうこと？
「ね、ね。この人たちほとんどがよその町から来たんだって」
やや興奮気味のディクシィ。実はディクシィはそもそもがこの町の人ではないことを…トウキコウ出身の意味も含めて…未来は知っている。
「ナンタイコウの武器は出来がいいからみんな欲しがるんだって、すごいね？」
「でもリョンカ一人じゃさばききれねえよ、この量は」
実際、これまで来てた客の量…それより倍以上はいるんじゃないか、というほどになってきている。店の中に収まり切らず、外に行列まで出来始めていたりする。
「よっし。んじゃあ…やりますか！」
それからどれくらい時が過ぎたのだろうか、さすがのコマカンサが悲鳴を上げ、ハリエルも珍しく座り込んだりしている中。いつの間にか他の冒険者も三々五々集まって来て…なんとか客をさばききったのだった。
「おっと、船が出ちまう」
聞けば彼らのほとんどは港からナンタイコウに来た、と。そして今は見たこともないほどのベタ凪で…港を出るまでに手漕ぎの助けがいるほどなんだとか。しかしさすがにそろそろ海は荒れ始めるだろう…ということで客は一気に減っていった、ということらしい。
「皆様、本当にありがとうございます。このお礼は必ずや…」
「いいってことよ、あんたの武器屋がなかったら俺らみんな困っちまうんだからよ」
「そうそうこういう時の助け合いって大事じゃない？ ね？」
一仕事終えた後の達成感と言うか乗り越えた感と言うか。皆がハイになって本当の意味でのお祭り騒ぎみたいになってきている…夕方だったりする。
「しかし…ミライ様には驚きましたな」
まだあっちでは騒いでいるが、ようやく一息ついて、落ち着いた感じのリョンカ。
「そうそう。精霊様の御力…てのとはちょっと違うかな、何だったの？ あれ？」
「いや、まあ、その…ね…」
ふと見上げるとあの火の分霊のお姉さんと他何人か（この方たちをこう数えるのかどうかは定かではない）が天井で笑顔で小さく手を振っていたりする…。
「すげえよな、ミライ！ リョンカほどじゃねえにしても武器の魔法力回復させちまうなんて、よ！」
ばしばし背中を叩いてくるコマカンサ。…痛い。
…わたしは何もしてないんだけどなあ…。
いよいよ忙しくなって、武器の魔法力回復の依頼も増えて。基本的にはこれは武器を作ったリョンカ本人にしかできない。と言うことは当然リョンカの負担がいきなり増す、ということになるのだが…
『ねえ、手伝ってあげようか？』
声がかかったのはそんな時だった。もちろん未来にしか聞こえない。そこに浮いていたのはあの火の分霊のお姉さんの他にも何人？もの分霊のヒトたちで…
『面白そうじゃな』
『ね、ね？ 何したらいいの？』
『このおっさんには散々世話になってるからな、何かできることはねーのかい？ お嬢ちゃん？』
…えっと…
『あんたは指示だしてーな。そしたら私らがちゃちゃっとやってまうから、な？』
