…えー。
 さっきまでのお互いの無視っぷりは何だったんだろう、どっちが本当の姿なんだろう、とか思ってしまう。それほどまでに分霊のヒト?たちの団結っぷりが激しい。…どうもリョンカに対して恩義?のようなものがあるらしいのだが、そこまではよく分からない。

『じゃあ、その、コレに魔法力を込めてください…』
 と言ってみると何人?も一気に集まって来てあーだこうだ、これをこっちにあれをそっちに、とやって魔法力を補充してしまう。ただし細かい調整まではできていないのでそこはリョンカに託すことになるのだが…それでもリョンカの負担は大きく減ることになる。
 武器屋に来るのは今はほとんどが新規の客ばかりだが、そうでない、魔法力の回復を望む客もいる。そこで店の中に『武器の購入希望』と『魔法力補充』の二つのカウンターをそれぞれ急ごしらえででっち上げて対処しようとしたのだった。もちろん、未来も最初はハリエルやコマカンサと一緒に『購入希望』の方で商品の運搬なんかやってたのだが、分霊のヒト?たちの『やっちゃえやっちゃえ』の声とともに『補充』の方のカウンターに顔を出してみることになったのである。

 一人だけそっちのカウンターにいたリョンカももちろん半信半疑である、当初は。
「本当なのですか? 大丈夫なのですか?」
 そりゃそうである。今まで自分以外誰もできなかったことなのだから。
「えーっと、まあ、はい。たぶん…だいじょぶです、はい」
 そんな未来の背後には分霊のヒト?たちが山のように集まっていて『いけるいける!』『問題ないわいな!』『やったれやったれぃ!』とある意味で正にお祭り騒ぎ状態だったりするのだが…リョンカにはそれは見えてないし聞こえてもいない。
「では…カンタンなものでお願いいたしましょうか…」
 と、小型のダガーを託されたのである。

「ほう…」
 最初は不安そうだったのだが(しかも傍から見ていても未来自身は何もせず、なんかぼそぼそ言いながらちょこちょこあちこち指すくらい)実際に仕上がって未来がおずおずと差し出してきたダガーを確かめてみると…
「…素晴らしい。素晴らしいですな…少し、手直しすれば問題ない…」
 魔法力の補充には同じレシピの魔法石が必要となる。つまりそれぞれの魔法石を全種類過不足なく用意しておく必要がある。しかしこれならどれか足りない分をちょっと補うくらいで何とかなる、と言う。
「ではお願いできますかな? どうにも私だけでは手が回りきりませんゆえ…」
 ということで未来はこっちを手伝うことになったのである。

「では今度は皆様の分を補充いたしましょうか。…何、今回は特別に丁寧に作業させて頂きましょうかな…?」
 普段から丁寧な仕事ぶりで知られるリョンカの、あまり聞かない冗談に手伝っていた冒険者一同からどっと笑い声が起きたりする。そもそも魔法力の補充は無料なのである。これはカネのない貧乏な駆け出し冒険者でも支障なく冒険ができるように…という彼なりの支援だったりする。
 ちなみにナンタイコウでは冒険者になるのに特に登録や資格などは必要ない。マリカの宿屋の依頼掲示板で自発的に依頼を受けるか、マリカにここに置いてくれ、と頼めばそれで「冒険者」を名乗れる。宿屋に住んでいない、ナンタイコウの町中に実家や持ち家のある冒険者だっているのである。

「じゃあ、俺はミライに補充してもらおうかな」
「あ。それズルイよハリエル? あたしだってミライに精霊力の補充やってもらいたいもん!」
 …えー…
 本当はリョンカにお願いした方が確実っぽいんだけどなあ、とか思っている未来なのだが…
『え? 私、あれやってみたい、あれって火が主体じゃない、ね、私にぴったりじゃない? ね?』
 あの火の分霊のお姉さんがやけに乗り気で未来の肩をぐいぐい押してきたりする。ハリエルは大剣と剣を二振り持つ一種の魔法剣士。その双方ともファリアナイトを主体として、火系統の魔法を使える魔法装具なのである。やはり同系統の武器の方が分霊のヒト?たちも乗り気なようである。
 なお…ディクシィの武器であるナックルは両方ともサリウナイト、つまりは風系統の石を主体としている。だから風の分霊のヒト?たちからやけに人気があったりする。
「ははは。…いかがですかな? ミライ様、御自分の武器から補充なさってみては…? 私もお手伝いしますゆえ」

「わたしの…シノノメ?」
「はい」
 そう言えばそろそろ補充必要かなー、とは思っていたのだけど…?
 そっと大ぶりの短剣を手にしてみる。見た目はてのひらをいっぱいに広げたほどの幅がある、非常に重そうに見える武器だが未来が持つ分にはそれほど重く感じることはない。
『…へえ? 面白い装具なのね? 配分が全部同量なんて?』
『はい。リョンカさんも珍しいって言ってました』
『じゃあ…私たちが全力でやってあげないとね? みんな? やるよー?』
 という号令?共に、わっとそこら中の分霊のヒトたちが集まって来て…。

 …えー…?



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