秒殺。言い方がおかしいが、文字通り秒で終わってしまった。それもリョンカの手直しが必要ないほどに。全成分が同等、イーブンだからこそ、なのかも知れない。
騒動がようやく落ち着いてきた夕方。…海はもう荒れ始めているのだろうか、武器屋はもう、平穏を取り戻している。
みんながわいわいお祭りの後の余韻？みたいなものの中に浸っている。それは分霊のヒトたちも同じようなもので、こちらも、わいわい、わいわい。
そんな中…分霊のヒトたちにもなんやかんや話しかけられていたりするするのだが…未来は何気なく尋ねてみたのだった。店に来た時からずっと気になっていたのではあるし。
『そう言えば…』
『何？ 何？』
『あの、地下に伸びてる縄みたいなのって、一体なんなんですか？』
光る縄？みたいなものは上下二つの方向にそれぞれ伸びている。上に向かっている方は分霊のヒトたちに糸となって繋がっているのは見ている通り。では下に、床下へと太く伸びている方は一体何なのかな…と。
すると。一瞬にして沈黙が支配してしまう。まるでナニカが通り過ぎたように、それまでわいわいやっていた分霊のヒトたちが黙ってしまったのである。
…やっちゃったかな…。
さすがの未来も口にしたことを少し後悔したのだが。
『えーっとね』
分霊のお姉さんがやや困ったような顔で腕組んでこう言ったのである。
『アレはね、うん、私らの間じゃなかったことになってるの。本当は見なかったことにしておいて欲しいのだけど…？』
そう言われても気になるものは気になる。
『どういうこと…なんですか？』
『うーん…あなたには言ってしまってもいいのかな…ちょっと珍しい子だし…ねえ？』
『そうだな』
若い男性のように見える分霊のヒトも大きくうなずく。こちらも火のヒト、とのこと。
『と言うか…な？』
『まあ…ね？』
『？』
『アレ、ウチらもちょおっと困ってもうててな…なんとかならんもんなんかな…？』
背の低い女性の分霊のヒト（こちらは風らしい）も困ったような顔になってしまっている。
「作業場の奥に…？」
「はい」
実は店内では打ち上げめいた宴会？のようなものが始まってしまっていたりする。いつの間にかマリカが料理やら酒やらを運んできて、忙しそうに飛び回っていたり。ソケイやガタイのいい連中が店内にスペースを取って、そこへ車座になって皆が座ってしまっている。今日の営業はもういいんだろうか、とかそんなことまで気になりそうだが…そういう細かいことまで心配する連中はここにはいないようだ。
「それは、今は構いませんが…」
当然ながらその主役はリョンカ。円形の車座の端っこに行儀よく座っている（むしろ座らされている）、そこへこそっと未来が話しかけた、という構図。
「どうせ今日はもう作業はできそうもありませんし」
すでに場が出来上がってしまっているのだ。ここでリョンカだけが抜け出して…とかそんなことが許されるような状況ではない。
「…そうですね」
「あちこち触ったりしなければ、全然構いませんよ。しかし、どうして作業場の奥なんかに…」
と、そこで隣からグラスを突き出され、そこへなみなみと酒なんぞを注がれてしまったので未来は軽く一礼して、さっさとその場から去ることにしたのだった。何せハリエルもディクシィもすでに顔真っ赤にしていい気分、てなもんだったりするのだ。
…おさけ飲んで渡ったりしたらどうなるか分からないし…
こっちでは問題なくてもあっちでは問題になってしまう。
『了解取れたみたいね』
『はい。では辿ってみましょうか…』
『そうやね』
と、あの太い縄を辿って分霊のヒトたちと作業場の奥へ進んでみようか、としたのだが…
「ミライ？ どした？ どっか行くのかい？」
とかそんな声がかかってしまうのである。
