『…と、こんなところでいかがでしょうか？』
「うむ。悪くはないな」
二本足で立っているアイトは…多分ソレがそうなのだろう…指を一本、振り向いたイントに立てて見せる。親指立ててオッケー、みたいな感触。
「聞いた通りだ若き旅人よ。キミのその秘めたチカラを見せてくれ。存分にそのチカラを発揮するが良いぞ？」
今度は腕組みをして軽く口角を持ち上げて笑みを浮かべて…見せているような、そんな風に見える。
「…何かの真似ですか…」
「お前さんの世界ではこういうのが流行っているのではないのか？」
『…自分の調査ではいきなり別の世界へ放り込んでやりたい放題させる、とかそんなのが流行ってるはずだったのですが…』
おっかしいな、なんか反応薄いぞ、それはあれです、やっぱり雰囲気が、もって行き方が、そうなのか、少しあれか…とか二人？でひそひそ話し合っていたりする。
「ンン。よし分かった。では旅立ちの前にこの宝箱を持たせてやろう。役立てるが良い」
今度はなんかどっかで見たことありそうな木の宝箱を差し出してくる。古びた木箱に丁寧な装飾。ただし…相手が猫なのでその大きさはこちらが両手を受け皿にして、すっぽりと収まってしまうほど。
…えーと…
なんとか開けてみる。中にはどこの通貨だか分からない錆びだらけの古銭が数枚と、どっかからテキトーに折ってきたっぽい細い木の枝と…割れた急須のフタ。
ゲームなんかほとんどやらない未来でも知っている。…あー…アレか、これは…アレだ。でも
「いらないです」
ぽい
「なぜだー！ こういうノリが好きなんじゃなかったのかー！」
「そうじゃなくて、あの、ですね…」
『…アイト様。恐らくはもっとよろしいモノがないとダメなのです。そうです、銃とか優れた能力とかを与えるべきなのです。欲求というのはどんどんエスカレートしていくものなのです』
「そうか？ そうなのか？ よし、ちょっと待ってろ…」
「だから…」
…なんでこんなにマイペースで周りのこと考えないんだか、このヒトたちは…
「困っているようにゃのう？」
声は背中の方から聞こえてくる。振り向くまでもなく…あれの声である。
「出してくれたらなんとかしてくれる、ってこと？」
「ほっほ。お主がそうしたいのにゃらそうすればいいにゃ。いや、別に、吾輩は別にこのままでもいいのにゃが…お主が困るのではにゃいのかのう…？ どうにゃのかのう…？」
「じゃあそのままで」
「いやいやいやいや、それはにゃいじゃろうに、ここはぜひともお互いを助け合うべきなのにゃ、うん、それが一番なのにゃ。そうするのが一番良いにゃ？ そうは思わんかにゃ？ にゃ？ にゃ？ にゃーー？」
…あー、めんどいなあ、もう…
とりあえず？ネイトを無理やり引っ張り出して（もちろん即席なのだからケージを壊してもよかったのだけど、なんかイヤになった）二人？の方へ送り込み…なぜかノリノリのアイトに無視されつつイントに嫌味を言いそれでもなんだかんだと説得？しつつ…おいおい、だいじょぶなのかな、とか思ってはいたが…どうも段々と話がついていったようで、なんとか落ち着いてきたのだった。ふう。
…こういうとこを買ってはいるのかな…？
明らかに役に立ちそうもないネイトをなんでアイトが連れてきたか、ということである。暴走しがちな上司を抑える役割…いやなんか違うな、多分別に何かがあるんだろ、と思うことにしたのだった。
「じゃあ…仕方ないから任せてもいいのだな？」
まだなんかどっか不満そうなアイト。
『…そうですね』
こちらもやや不満をにじませている。
「まあ、こうなったのも何かの縁ってやつか。…一応説明はしておくぞ。実のところこの世界は機能不全寸前、というところにある。どういうことかと言うとだな、世界はお互いが影響を与え合うものなのだ。そこには善も悪もない。ただしそこには一定のバランスがないといかん。そのバランスが崩れると…いや、崩れ過ぎると良くない影響を周囲の別の世界にも与えていってしまう」
「前にも説明した通りにゃ。他の世界に影響もできにゃいような世界にゃぞ、意味はにゃい、とな。そういうことをアイト様はおっしゃりたいのにゃ」
…そういうことを言いたいわけじゃないんじゃ…
「つまり、このままナンタイコウが存在し続けるとあんまり良くないことがあちこちに起きるかも、と、そういうことですか？」
『…そういう解釈でほぼ間違いありません』
と、と軽い感触が肩に伝わってくる。小さな三毛猫イントが肩に飛び乗ってきたのだ、と気づくまで少し間があった。
『…一度崩れ始めたバランスを修正するのはなかなか困難なのです。そう、あなたの世界で言うところのドミノ倒しのように。近しい世界に予測不能な影響を与えてしまう可能性もあります』
「近しい世界…」
『…あなたの世界ですよ。ここと近い世界の一つはあなたが元々いる世界です。このままでは…』
