…え？ なんで？
それが正直なところだったりする。今まで楽しく読んでいた本の中の世界。それがいきなり現実とリンクし始めたような、そんな気がしてくる。
『…当たり前じゃないですか。ここを作ったクリエイターは元々はあなたの世界のヒトなのですから』
「クリエイターに限った話ではなく、だな。どんな存在でもそれが生まれた世界を最も近しく親しく思うものなのだ。無意識のうちでも己が所属していた世界を感じて影響を与えてしまう、そんなことはよくあることだ」
「アイト様のおっしゃる通りにゃのにゃ。誰しもが故郷を懐かしく思うものにゃのにゃ」
「てことは…」
…あなたも？
「アイトさんはどうなんですか？」
「うむ？」
「私には元々いた世界があります。ここ、ナンタイコウを作ったクリエイターにも。でも…アイトさんはどうなんですか？」
「俺か？」
「ええ、まあ…」
…あなた方はどこから来たんですか…？
「そんにゃもの、あるわけにゃかろうに、全くこの小娘は礼儀というものを知らんもんにゃにょう」
未来とアイトの間に割って入るように割り込んでくる…とは言っても身長差がかなりあるものなのだから…のそっと入り込んでくる、そんな状態だったりするけども。
「アイト様は唯一にして至高。懐かしいとかそんにゃ…女々しいこと思うわけないのにゃ。そんにゃことも分からにゃいとは…」
「ああ、それなら」
軽くあご？に手を当てて見せるような仕草。
「俺らにはそんな記憶も思い出もないからな。懐かしいも何もあったもんじゃない」
「それって…」
…なんか…さびしいような…
『…そんな感情は特に必要ありません。だって、最初からゼロなら後から何を掛けても意味はないでしょう？』
「掛け算ってこと…？」
『…はい』
「じゃあ、足し算なら？ 加えることは後からでもできるじゃない、それなら…？」
『…加えても何しても意味はありません。我々キュリオスの眷属はそこに在るだけ。そこに在って管理し続けるだけ。それだけの…』
「そうじゃないっ！」
自分でもびっくりしている。なんで…自分がこんな大きな声を出しているのか。なんで…自分がこんなにいらだっているのか。何に…怒っているのか。
「だって…だって…だって、そうじゃない、でしょ、そうじゃない…」
なんでなのか。自分にも分からない。ただ…どこか心のどこかで何か誰かが『それはチガウ何かがチガウ』と言っている何かがいるのは分かる。
「お、おう…そういうもんにゃのにゃ。う…む、そうにゃの…ですか…にゃ？」
「俺らには分からん感情だ。ふん、完全に理解することは…まず無理だな、お互いに」
「…しかし、どうやらある意味で俺とお前さんは似たところがあるようだ、それは分かる」
ちら、と未来の肩を見る。あの三毛猫はそこにいる。
「イント」
『…はい。どうも持って行かれてるようですね。ただし回復の兆しはあるようです』
「持って…行かれてる…？」
…前にも…どこかで聞いたような…？
「まあ、そういうことだ。とにかくこの世界の処遇はお前さんに一任しよう。どうしようもなくなったら俺らを呼ぶといい。なんとかしてやる。…帰るぞ」
右前脚の人差し指？の爪をくるりと一回転。丸い輪ができる。その中は…様々な色彩が色濃く渦巻いている。今のここのようなモノクロの世界とは全くの、別世界。
「まあ、せいぜい頑張るのにゃ、な？」
真っ先にネイトが輪に飛び込んでいく。アイトも続こうとして…
「…イント？」
そう言えばまだ未来の肩の上にいる。動かない。
『…アイト様。申し訳ありません。自分は…』
「そうか。連絡は欠かすな。期限は…三日というところだ」
『…はい。ミライさんの時間で、ですね』
「そうだ。おい、ミライとやら、イントを頼む。まだまだ経験は少ないが使える奴だ。首尾よくうまくいったら…もう少し話をしよう。じゃ、な？」
