…うーーーん…。
いつものように電車に乗る。もちろん目的は学校に行くため。いつものように混み合う車内。殺人的、とまではいかないが、肩がぶつかり合い、身体が押されるくらいには混んでいる。これは、まあ、仕方ないことではあるのだけど…。
『…ほほう、これはこれは』
未来は乗る車両が決まっている。一番前の車両の一番後ろのドア付近。これは編成の中ほどとかになると混み方が尋常ではなくなるから、というのが一つ（だからここはそこまでひどく混んでいない）。もう一つは真記を待つから、である。
『…ふーん、これは…ふむふむ』
各駅停車のこの電車が一つ、二つと駅を進めていくと…やがて背の高い女子高生がこっちを目指して走って来る。
「おっすー、未来」
「おはよ、真記」
『…なるほど。これがミライさんの暮らし、ですか…』
実はアタマの上にイントが乗っかっている。それもだらしなく？だらー、と四本の脚を伸ばしたまま。
いくら未来でも電車の中に猫を持ち込んでいけないことは知っている。いや、持ち込むのは問題ないらしいのだが、こうやってケージにも入れずに頭の上に乗せたまま、というのは本当はいけないことのはずである。ただ…そこに猫がいる、ということを誰も知らないし気づいていない。
重くもない。重さは感じないのだが…視線の隅にちらちら白い脚が動き回るのと、なんだかんだ小声が聞こえてくるので未来にはそこにいる、というのが分かる。
…なんでこんなことになったかな…。
最初は未来も反対したのである。一応。
『…でもパートナーのことは知っておきたいですし』
とかさらっと流されて勝手？に押し切られてしまった。時間がなかった、というのもある。朝ごはん食べる時も皆で一緒にマンション出る時も、イントはずっとそこいる。
「なんだかなあ…」
「どした？ 悪いもんでも食べた？」
「いや、なんでもない、なんでもない…」
アタマの上に白い子猫がいる、とか言っても信じてもらえそうもないし。
『…ほほう。ふんふん。なるほど…いやはや…』
そのイントは未来の頭の上に乗ってからこっち、ずっと興味津々な様子である。どうもあまり他の世界に行ったことがない、らしい…。
駅で降りてバスに乗る。ここでかしこと合流するのもいつも通り。…そしてイントはやはり頭の上である。
「あ、そうだ…みらい？ 聞いた？ かえってくるんだって」
「帰って…？」
「ああ、そうだ。あのてんこ…じゃないや、七咲くん。あんたの」
「そう。みらいのななさくくん」
「え…」
一瞬、二人がにやにやしながら何を言っているか理解できなかった。誰が何の誰の、だって？
「え、え、え…？」
「やだなあ、あんたのダンナ。帰ってくるんだって」
「…え…」
「サキ先生が知らせてくれたんだ、昨日の放課後。何でも家の事情でちょっと長めに休んでたけど、出席日数のこともあるから今日からは…って、おーい？」
「みらい？ だいじょうぶ？」
『…ミライさん？』
いやいやいやいやいや、なんでなんでなんでなんで
ぱん、と両手で頬を叩く。別に気合を入れるとかそんなんではなく…ただ…
「あ。噂をすればなんとやら、ですなあ…おーい、ななさくー、ヨメはこっちだぞー？」
「ほら、みらい？ ななさくくん、いたよ？ ほら？」
背中からかしこがぐいぐい押してくる。えっと、その…
「あ。福田さん。おはよう」
「え、うん…おはよう…」
何とか顔を上げてみる。…なんか…少したくましくなってる…？ 体格が、少し、大きく…？ 時間の流れ方が違うから…？
「あれ？ 福田さん？ 頭の上…何か乗ってる…？」
