一瞬、アタマの上のイントが、びくっと反応したような。
「なにいってんの、ななさくくん…だいじょうぶ？」
「そうだぞいくらヨメの前だからって…なあ？」
でも未来はまたちょっと違った感覚を感じていたりする。
…そっか…見えるようになったんだ…。
それから朝のホームルームがあったり、授業があったり。…昼休みに一緒に食堂でも…と（主にかしこと真記が）誘ったのだが三輪団員の半分（いやそれ以上）泣き崩れたような顔でどこかに強引に連れ去られていってしまって…話すこともできなかった。多分、阿多根先輩のところにでも連れていったんだろう。
「盃でも交わしてるのかね」
とかにやにやしながら真記。当然、未来には何のことだかよく分からない。
放課後になって。…もちろん授業中は教室に戻ってきてはいたのだけれど…三輪団員が放課後になった瞬間にまたぞろ強引に連れ去って行ってしまって、ちら、と顔を合わせただけになってしまった。
かしこと真記はそれぞれ部活に行ってしまった。残念がってはいたのだけれど。
一人で帰ることになる。…今日は…えっと…夕食…だよね…作らないと。
『…さびしいのですか？』
「まあ…ね」
軽い感覚が肩に伝わる。イントが降りてきたらしい。
『…あの方も旅人のようでしたが…？』
「うん。こことは別の世界…バン・ハンドルの人…人、じゃないかな、そこの存在」
『…そうですか』
むに、と頬に感触。小さな肉球を感じる。
『…会いに戻ったらいいじゃないですか』
「でもね…迷惑でしょ、やっぱり」
『…時間、ないですよ？ 色々と』
「そう…なんだけど…」
…そう…なんだ、けどね…
なんとなく、なんとなく適当？に食材を買ってマンションの前まで戻ってきた。その間、イントは未来の肩と頭の上を行ったり来たりしながら『…ほう』『…ふむふむ』『…なるほど』などつぶやいていたけど、したいようにさせていた（多分止めても止まらないだろうしそこまでジャマでもなかったし）。本当はこういうところは動物禁止なのだろうけど…コレが動物扱いになるのかどうか、そもそも他の人には見えていないのだし。
…ふう。
エントランスから入ろう、とした時目の前のトビラの前に一人の長身の女性が立っている…
「よう。帰ってきたな」
「くすし…さん？」
「おう」
にか、と笑って大股に近づいてきて…
「なんか珍しいの乗せてるな」
ひょい、と頭の上のイントをつまみ上げる。
『…はー…なぜあなたがこんなところにいるのか、自分には疑問なのですが』
「いいだろ？ 別に。あたしにゃあんたがここにいるってことの方が…いや、アイトの差し金ってやつか？」
『…アイト様はあまり関係ありません。自分はほとんど自分の判断でここにいます』
「ほお…言うじゃねえか、イントのくせに」
「あの…」
…人の頭の上で何やってんですか…。
当然だけどくすしさんの方がはるかに背が高い。真記も背が高い方で身長から言えばほぼ同じくらいだろう、でもこの人？の方がはるかに存在感がある。
「どう…したんですか？」
「いや何ね、このみの奴がちょっと気になる話を仕込んできてねえ…こいつが一緒にいるってことは、うん、やっぱり例の件ってわけか」
『…あまりかき混ぜないでくださいよ、あなたが絡むといつもそうだ…ガサツだし』
「人を疫病神みたいに言うなっての」
『…似たようなものじゃないですか。まったく…』
