「あの、で、その…」
「おう。えっとな、コトは実は結構重大なんだってことでな。心してかかってくれってことだ。それだけ。じゃあな」
と、手をひらひらさせて立ち去ろうとして…
「いや、それだけじゃちょっと手ごま不足ってやつだな。イントだけじゃあなあ…」
『…失礼ですね、相変わらず』
「そうだ、坊主と一緒にやったらいい。あいつ、ガーフの特訓受けてたって話じゃないか。そんならそれなりに使えるようになってるはずだから…」
「…って、どした？」
「いえ、あの」
「なんかヘンな顔してるぞ？」
両頬をつかまれて…うにうに。むにーーっと引き延ばして…ぱちんと離す。ちょっと痛い。
「なんかあったのか？ 坊主と？」
「いえ、そんなことは…」
「久しぶりに会ったんだろ？ 今日もガッコウで会ってたんじゃねえの？」
「…えと…」
「結構会ってなかったじゃねえか、色々と話すこともあったんじゃねえの？ なあ？」
『…くすし様、もういいでしょう。ご忠告、ありがたく頂戴いたしますので』
「いや、だってよ」
右手を無造作にそこらに突っ込んで…本当にそこらの空間に突っ込んでいる、何せ右手が肘の先から見えない。そして…何か探るような仕草。
「あたしならこうやって坊主を今ここに、だな…」
ホントウにこの場に啓児を引っ張り出してきそうな…
『…だからその辺がガサツだ、と言っているんです。とにかくこの件はミライさんと自分たちでどうにかします。どうかお引き取りを』
『…いいんですよね？』
「…うん」
そっか、んじゃあまあ頑張んな、何かあったら遠慮なくあたしらにも言うんだぞ？ なんかどうにかしてやっからよ、とやっぱり手をひらひらさせながらくすしさんは去って行ってしまった。
『…でもあの方たちをそこまで介入させるわけには…』
「分かってる」
あの人たちは特別な存在なんだ、ということは未来も気づいている。くすしさんはもちろん、本来ならイントだってこの場にいて自分を助けたりしててはいけないんじゃないか…と。
くすしさんやイントはあくまでもキュリオスの眷属であって世界の当事者ではない。本来ならそれぞれの世界のことにまで首を突っ込むはずもないし、その必要もない。世界が消えようがどうしようが、彼（彼女？）らにとっては何の関係もないはず、なのだ。そこら辺のことは未来もなんとなくでも理解しているつもり。
それなのに…なんで？ ここまで？
『…しかし現状で我々が力不足なのは否めません。自分とミライさんだけでは…』
「うん…」
分かってる。分かってる。何をどうしたらいいのかも分からない、と言うことも…十分分かってる。
エントランスからエレベーターに乗って。部屋の前で鍵を開けて…
…ふう
まだ誰も帰ってきていない。静かな台所の床に買って来た食材をそのまま置いてしまった。…なんとなく…リビングの椅子に腰を下ろしてしまう。食材、結構色々あるから仕込みから仕分けからなんだかんだとやらないといけないのだけど…ちょっと、疲れてしまった、と言うか…。
そこへ、電話が鳴る（未来は携帯もスマホも持っていない）。
「はい…福田です…」
『あの、私、七咲と申しますが、福田さん…いえ、福田未来さんはご在宅でしょうか？』
一瞬、心臓が跳ね上がる。
「え、えっと、その…」
『…福田さん？ 福田さんなのかい？』
「うん…」
『さっき、くすしさんが壁からいきなり現れて、福田さんが大変だ、連絡してやんな、って』
『…あのやろ、ほんとに余計なことばっかしやがりますね…』
『大丈夫なのかい？』
「うん。あの、あのね、うん…うん…」
『…福田さん…？』
「うん。うん。うん…ありがとう…うん…」
それしか出てこない。言葉が聞けて…なんか安心した、とかそんなことまでは言えない。
分かった。今からそっちへ行くから、いいね？ と電話は切れた。一応？未来は、別にいいよ、と言ったのだが…
『何言ってるんだい？ 君が大変だって時になんで…とにかくそっちへ行くから。いいね？』
