「で…何が一体どうしたっての？」
とりあえず？お茶を出して…二人にはソファに座ってもらっている。あー、ホントは部活まだあったんだけどなー、まあ、なんかあるなら仕方ないか、とは真記の弁。かしこは…べつにいいよ、問題ない、とのこと。
「その…ね」
…どう説明したらいいんだろ？
「まえに話してた、べつのせかいってはなし？」
「う、うん、まあ…そうなんだけど」
「ははあん」
ソファの上で膝を立てるような、ちょっとお行儀悪い格好を、無理やり。そして唇をかすかに持ち上げて見せる…ワルい顔である。
「これはあれだ、転校生が関係してるって話だね？ 福田くん？」
「てんこうせいじゃなくて七咲くんだよ、まき」
「いいのいいの。あたしの中じゃ、永遠の転校生なんだから。あいつは」
「えっと…」
「あ。やっぱそうか。みきってば分かりやすいなあ、ホントに」
「で…？ どーいうことになってるの…？」
どう説明しようか、とやっぱり戸惑ってるその瞬間。
床に大きな黒い穴が口を開ける。
「へ…？」
呆気に取られている二人の前に、文字通り地の奥底から啓児が姿を見せたのだった…。
と、そうカッコいいものではなく。
実際はまるで何か誰かにブン投げられたように一旦天井近くまで放り投げられた啓児の身体は、頭から床に激突する前に一瞬だけ空気に受け止められるような姿勢となり…ゆっくりと床に降りていく。そして、未来がその身体を抱きとめる。
『…おや？』
「…イント？」
『…一回叩き付けて一段階引き上げてみようか、とか思っていたのですが…』
「イント？ 次やったらわたしでも怒るから」
『…ミライ…さん？』
「ごめんなさいは？」
『…はい、えっと…』
「イント？」
『…ごめんなさい。もうしません…』
テーブルの上にちょこん、と座った小さな三毛猫はそこで深々と頭を下げるのだった。
『…いやしかし使えるっちゃあ、使えるのですが、まあ、まだまだ過ぎて…なんともかんとも…ん？』
「ネコだ…三毛猫だ…」
「カワイイ…」
腕組んで、やれやれ、と言った様子の三毛猫がテーブルの上に立っていて、興味津々の二人がそれを下から眺める、と言う構図。なんだか神の像でも崇めているようにも見える。
『…ああ、これは失礼しました。自分はイントと言います…』
「あ、えーと、朝ヶ岡真記です。こっちは東海林かしこ」
「よろしく、ネコさん」
小さな小さな手？を握ってきたりするかしこ。
…この方たちは猫が立ってしゃべっても驚かないのですか？ この世界ではあまり一般的ではない、と聞いていましたが…。
未来の頭の中に響く声。イントがこっちを見ている。
…ガーフって、わたしの先達がネコの姿してて、一度会ってるから…。
…なるほど…。
そこで、ふと、思ってしまう未来。
旅人の力の大きさは現在存在している世界への「強さ」が大きく関わってくる。今いる、この世界が非常に「強い」のはゲンゾーじいさんや陽子さんの力の使い方を見ても分かる。実際、未来が「ここ」で他の世界と同じように力を使うことはほぼ不可能だろう。
しかしさっき啓児を受け止めた力と言い、イントと心で楽に会話できること、と言い…何か、何かがどこかで違ってきている、ということなのだろうか…？
