「あれ？ 二人も来てたんだ？ いやいや旅人ってのはやっぱりヘンなのばっかだねえ…うちのジジイかっての」
ぽいぽい、と投げるように靴を脱いで…
「なんかまだどっか渡るとこあるってまたどっか行っちゃったけどさ。ありゃ何だろね、シュッとしてて美人さんだったねあのネコは…って」
テーブルの上にはもう一頭ネコがいるのである。こちらは三毛猫だけど。
「またネコか…」
『…どうやらある程度我々をご存知の関係者のようですね。お知り合いで？』
「阿多根美咲先輩。みきの友だちで、えっと…」
「おさななじみ？」
「そう幼なじみ」
『…なるほど。この方が後見人の、なるほど…』
やはり音もなく床に降り立って、すすっと近づいていく。そして阿多根先輩の顔を見上げる形になる。
『…初めまして。キュリオスが眷属のイントと申します。この度はミライさんのお手伝いに参りました…』
「おー…こりゃご丁寧に。あたしは阿多根美咲。キミは…そっか、眷属ってアレか…」
しゃがんでイントの顔を覗き込んで、何度かうなずいてたりしている。
「…み、みーちゃん、どしたの？」
「いやね、前にジジイが言ってたやつかな、って。たしか…ジジイの時は犬が出たって言ってたっけ」
『…二十六字属の方々ですね。自分は五十字属の末席・イントです…』
「なるほど。犬が二十六字で猫が五十字ってわけね」
「で…みーくん？」
「え？ あ？ はい？」
「あたしは何をしたらいいわけ？ よく見たら啓児もいるけど？」
ちら、と頭を下げて見せる啓児。
「えー…っと」
…啓児？
「最近来なくなってたけどコンピ研には結構来てたからね。啓児？ 三輪っちがさびしがってたよー？」
「昨日会った時に、ちょっと、説明したから問題ないです」
「ほんとにー？ なんか泣いてたよー？ 相変わらず直情っつーか激情家なんだから、あいつってば」
あっはは、とか笑っていたりする。
「…おんやあ…みき？」
「な、なに？」
「なんか面白くないってか？ そうってか？ 彼氏がよその女に名前呼びされてるのが面白くないってかー？」
「ほほう。それはきょうみぶかい話ですね、まき」
「んまあ、あたしくらいになるとね、こう…びびっと来るのね、まきの考えていることくらいなら」
「いや、別に、わたしは…」
「てれないてれない。みらいってすぐに顔にでるよね、ほんと」
「そんなんじゃないって…」
「何々？ ひゅううー！ みーくんってばそっかあ、そうだよねえ、うんうんそれはあたしが悪かったなあ、ごめんねえ、あはは」
「阿多根先輩それはちょっと…」
『…あの、本題に入りたいですが、いいですか？』
このままではどこに進むか分からんのである。
ンン、と軽く咳払いなんぞしてみる…イント。もちろん二本足で立って、である。
『…現状としてはクリエイターでもあるミライさんのお母さま・フクダキョウコさんの助力がどうしても必要ということに尽きます。そうでないとあの世界そのものの崩壊は防ぎようもありません。そして崩壊が進めば進むほど最も縁（えにし）の強いこの世界にも影響が出てくることは間違いないでしょう…』
「はい、イント先生」
『…なんでしょう、真記さん？』
「もし仮にあっちの世界が崩壊して、あたしらの世界に影響が出るとして…どんな影響が出てくるのでしょーか？」
『…それと分かる影響がすぐに出てくるかどうか、その辺も不明です。過去の世界崩壊の事例からしても思いがけないところから出てくる例が報告されていますし』
ぺらら、と目の前の見えない帳簿をめくる仕草。
『…例えば世界構造の破壊、といった大がかりなケースから特定地域にしか生息していなかった生物の他地域への積極的な進出、あるいは蝶の羽の色の微細な彩色変異などなど、変化の事例には事欠かないのですが…』
ピリリ、ピリリ
「あ、ごめん、あたしだ…ちょっと外すね？」
と、阿多根先輩が、スマホを手に台所の方に行ってしまう。
「もしもし？ 母さん？」
