…そんなこと言われたって…
『具体的には何かの縁…キョーコさんとお嬢さんの繋がりを探すんだ。それは家族であるあんたにしかできねえこった。どの世界でもいい、何かキョーコさんが一番思い入れのあったモノ…それを探す。それからだな』
『それを足がかりにして、キョーコの居場所に渡って、それで一気に安定してもらう。どっかにかけらでも存在してるなら、カンタンでしょ？ そんなに難しいことじゃないでしょ？』
…いや難しいでしょ…かなり
目の前のメイジ（ゲンゾーさん）は思い切り親指立ててにこやかな顔、だったりするけども。そもそも縁だの繋がりだの言われてもなあ、というところが大きい。どこも具体的にはなっていないしディクシィ（ヨーコさん）に至っては声だけなんだけどそんなに明るく言われてもなあ…と。
『そんなに深く考えるこたあねえやな、ホントちょっとしたもんだ。それが縁ってもんよ』
…そう言われてもなあ…
みしみしり、とイヤな音がどこかからしてきた。ヨーコさんの「部屋」でも聞いた音。
『…やっぱりもう持たねえのか、結構短いもんだな』
『メイジ、そろそろって感じだね』
『ああ…』
上を見上げて、そしてぐるりと周囲を見回して…大きな息をつく。
『これまで…ってとこかな。お嬢さん、悪いがここでお別れだ。楽しかったぜ、色々とな』
…いやいやいやいや、ちょっと待ってよ
軽く右手を上げてくるりと向けたその背を、思い切り掴んでしまった。
『おう？』
「そんなの、ダメです。みーちゃんはどうするんです？ このまま何も言わずにどっか行っちゃうんですか？」
『仕方ねえんだな、これが。別れなんてのは突然来るもんだ』
「仕方なくないです。せめて…せめてみーちゃんに何か一言言ってください。お願いです」
『そう言われてもなあ…』
上げてなかった左手をこっちに示してみせる。
『ほら、こっちはもうこんなんになっちまってる。ここももうもたねえし…お嬢さん、あんたもここにいたら危ないんだぜ？』
無言でぶんぶん首を振る未来だったのだが…。
するり、でもなく、ずるり、でもなく。しっかり掴んでいたはずの服の裾が…抜ける。
『美咲には…お嬢さんから頑張れって伝えてくれ。何もできねえダメなおじいちゃんだったけどな、ってな』
首を振り続ける未来。
『ミライ。ほんとにそろそろ危ないから…』
『ああ。今度は本当に…』
『サヨナラだ。またな…』
下から身体ごと突き上げられる、そんな感覚。速度の速いエレベーターに無理やり乗せられたような、誰かに上から強引に引っ張られたような…そんな気もする。あっという間の、ほんの少しの間の出来事だった、ような。一気に現実に引き戻されてしまう。
呆然、としていた阿多根先輩の前に現れるしかできなかった未来は…
「ごめん、みーちゃん…ごめん」
と、その意外に小さな肩を抱きしめるしかできなかった。
………
ゲンゾーじいさんの意識は戻らない。そのまま入院、ということになってしまった。
「またね…みーくん」
家に戻る阿多根先輩の車に同乗させてもらって、マンションの下まで送ってもらった。やはり顔色の良くない阿多根先輩に、未来は
「うん。またね。みーちゃん…」
としか言うことが、できなかった。
