「いいわけはないね。それではそこでお話が終わってしまう。いや…終わらないで止まってしまう」
ゆっくりと…羽佐人。
「でもね。今日子さんは多分、そこまで考えてなかったと思うよ。ただ…それこそ…ただ…楽しいからそういうお話を創った。そこへ僕がちょっと協力した。でもそこから先は考えてなかった。それくらいのことなんだと思うよ」
「おわりのないのせかい…」
「でも、それはそれでアリかも…うふふ…わるくない…」
「かしこ？」
「みかんせいのび…これからのびるのびしろ…ふふふふ…」
なんだかちょっと違う方向に目覚めつつあるかしこである。さすがの真記もややヒいた表情。
「で、そこからどうなるんすか…？」
明夫の疑問ももっとも。
『…そうですね…その分解した要素、とやらの中からフクダキョウコにとって最も繋がりの深そうな要素をピックアップしていきましょうか…』
未来の肩に、とん、とイントが跳び乗ってくる。
「そういうお話の一部を探す、ってこと？」
『…そこまで大きなものでなくてもいいのです。何か、ちょっとした事象。コトバでもいいのです』
ちら、と羽佐人を見上げる。
『…何かご存知ありませんか？ そのストーリーの中に、フキダキョウコが最も執心していた要素を…？』
「最もこだわっていたのは、うん、君たちだよ。未来、明夫」
「わたし…たち？」
「もちろん先守もね。君たちのために作った物語だったのだから」
『…しかしそれではやや弱いようですね…』
「どうして？」
『…フクダキョウコはその存在が全て消え去っているわけではないのです。しかし動かせる状態や状況ではなく、その現場に執心していた要素を直接持っていく必要が…』
「え？ いや、ちょっと待ってよネコさん。母ちゃんって…まだ生きてんの？」
『…生きているの定義にもよりますが。物理的な生命活動はともかく精神的かつ意識的な活動が可能な状態か、と問われればそれは限定的に可能なので部分的には生きている、とも言えます』
…え…
「じゃ、じゃあ、今日子さんは戻ってこれるのですか？」
「この部屋に？」
『…それはまず無理でしょう。残念ながら…』
「どういう…こと…？」
『…フクダキョウコは現在、非常に不安定な状態にあるようです。個々の存在、というものを何処かに固定された物理的物質・精神的物質などなどの集合体とするならば』
小さな右前脚を、ヒトで言うところの手の甲を上にして見せる。そこへ、ぽう、と小さな光の玉を出現させる。
『…これを物理的かつ精神的な物質の複合体とします。便宜上、この二つの物質に限定して説明します…他のも混ぜるとヤヤコシクなるので』
『…これを二つに分けます…』
光の玉は赤い光の玉と紫の光の玉に分かれる。
『…これがある意味で死んだ状態、ということになります。物理的物質はやがて朽ちて様々に吸収されていき…それに追随するように精神的物質も霧散していきます。が、何らかの事情により精神的物質が何処かに固定されてしまった場合』
赤い光の玉が消え、紫の光の玉にピンのようなものが突き刺さる。
『…その何処かに精神的物質のみが固定される、という非常に不安定な状態になります。しかし物理的物質はすでに消えてしまっているので…ここへの帰還、というのは非常に難しいということになります…』
「幽霊みたいなもんになるってこと？ ホント映画の世界だな…」
『…ユウレイがどういうものか、という定義にもよりますが。まあ、そんなものかと思ってもらっても問題ないです…』
実際には個々の存在、というのはもっと複雑で構成している要因はこの二つだけではないのですけど…世界によっても全然違っているものなのですけどね、とも付け加えたりする。
『…そして、これを応用したのが渡り、というわけなのですよ…未来さん』
