「え？」
ここでいきなり旅人の話になるとは思っていなかった。
『…基本的に物理的・精神的・その他、と要因がはっきりしている世界の旅人は、それぞれの物質に対する繋がりが柔らかいことが多いのです。自身の精神的物質を一旦切り離して他の世界に向かわせ、その後他の自身の物質を呼び寄せる…というのが渡りの基本的な原理です』
「先に意識だけ、心だけ飛ばしておく…ってこと？」
『…そういうことです。肉体を後で呼び寄せる、ということですが…そこにタイムラグ的なものはほとんどありません。体感的にはほぼないようなものです…』
「精神だけってのは…なんかちょっとコワイな…」
『…はい。そのため何処かに囚われてしまうことも多々ある、ということでもあります。一般的には物理的存在よりも精神的存在の方がやはり存在は不安定になりがちですから』
そしてもちろんこれはこの世界のような身体的・精神的組成をもった旅人限定ですが、と付け加えたりする。
「そうですか…」
軽く頭をかいて、その手を大きく振り下ろす羽佐人。
「…そう、ですか…」
「オレは…なんだかよく分からなかったけどさ」
明夫は、うーん、と腕を組んで天井を見上げたりしている。
「結局つまりは母ちゃんはもう二度と戻って来られない、ってことで…いいんだよね？ ネコさん？」
『…いえ、そうではありません。ここに戻ってくること自体は可能かと思われます』
「…え？」
『…あくまでも物理的・精神的その他各種要素が全部きちんと揃った状態での帰還、というのは不可能、という話です。すでに消えてしまったモノを再構成して補うことは可能ですが、それは結局は再構成されたモノに過ぎず…完璧に同じ、同一、ということはあり得ないからです』
「じゃあ…一部だけでも、ってことはできるってこと？」
考え、考えながら真記。
『…それなら十分に可能、ということなのです。が…』
目の前に、霧に包まれたヒトの手首、のようなモノが浮かび上がる…。
『…コレがフクダキョウコの一部だ、として。コレのみの帰還が果たしてあなたがたの望む帰還でしょうか…？』
「………」
「…母さんのことは一旦置いておこうかと思うんだけど、父さん？」
「うん。…そうだね」
顔に手を当てて息子と同じように天井を見上げる。
「覚悟は決めてたはずなんだけど、ね。ははは…」
『…それでは…』
ぐるり、と皆を見回すイント。
『…改めてとっかかりと言いますか要因と言いますか、何らかの要素を…』
「ね、かしこちょっと考えてたんだけど…みらい？」
「え？」
「そのナンタイコウってまちのことなんだけど」
かしこがいつの間にかノート広げて何やら書き込んでいたりする。
「どんなまち？ どれくらいひとがいるの？ おもになにをやってるところなの？」
「…えっと…」
…なんだろ。あそこって…なんだろ？
「うーーん…」
「じゃあさ」
何か単語を書き込んで、ぐるりと線を引いたりしている。…相関図？
「ほかのまちにはいけないんだよね？ でもおみせ兼やどやと、そしてまちのそとに鍛冶場。ちかくにモンスターのでる森があって…そしてぼうけんしゃ」
とんとん、とペンでノートをつつく。
「どうみてもまだまだ広げるつもりだったのにそれができなくなった、ってことはまちがいないんだけど…なんかね、なんか…雑っていうかなんというか…」
