「ゲームとかマンガのせかいっぽいんだけどそのわりには、というか…」
「ああ。それなら今日子さん、基本的にゲームもマンガも何もそういうこととは全然関係ない、知らない、って人だったからね」
何度かうなずきながら、昔を思い出している様子の羽佐人。
「本はちょっとは読む、ってとこだったかな。それもエッセイとか旅行記とか。小説は…うーん…全然じゃないかな、テレビのクイズ番組で…何だったかな、多分賢治のあの伝記の話の問題だったと思うけど…その時に『有名な話なの？ これ？ あたしこんなの知らない！』とか驚いてたくらいだったし」
最近は教科書にも載ってるんだろうかな、賢治の話は…と。
「いつも外を飛び回ってあちこち行ってるアウトドアな人だったんだ。だから世界を創る、とかそういうある意味内向きなことにも興味持ってたなんて知った時は驚いたけどね」
「え…？」
手にしていたノートを落してしまう…かしこ。
「あの…その…それって…じゆうにじぶんがおもうがままの世界をつくれるってのに…それなのに…？」
「いや、でもさ、かしこ」
真記は何度かうなずいていたりする。
「自分が好きなように創れるってんならさ、別にそういう前例とかそういうのって…なくてもいいんじゃね？」
「そうじゃないんですっ！」
落ちてたノートを拾って、そして、軽く抱きしめる。
「…まき？ もし、かりに…仮に、ですよ？ 今のゲームとかマンガとかラノベとか、そういうのとは全く関係ない、ぜんぜんそういうのをしらないひとがじゆうにせかいをつくれるとしたら…どんなのになるとおもいますかっ！」
「いや、そりゃあ…なんだろうね…」
かしこは言うまでもなく真記よりもずっと背が低い。そして今は居間のソファで二人とも座っている。当然真記の視線の方が上になるのだが…かすかに腰が浮いているとは言え…少しずつかしこが…真記を押して、圧倒している…。
「かしこなんかには分からないせかいになるはずなんです…でも…。…そう、もしほんとうにほんもののじぶんだけの世界がつくれるなら…かんぜんにかんぺきにそのひとだけのせかいになるはずなんですっ！」
…あ、あれか…
未来にはなんとなく、かしこの言うことが理解できる。それは…あの時。
…ガーフに色々渡らされた時
なんだかよく分からない世界。奇妙なヘルメット氏。芝生の世界。鮮やかな草原。
…それぞれに、クリエイターがいたんだ
あれらが気の遠くなるほど時の経って様々に変化していった先天世界ならともかく。そうではない後天世界なら…！
「でもこのナンタイコウはちがいます。どこかゲームやマンガのにおいがします…それなのになんですか、『つかれとるくすり』って」
「いや、まあ、そんなもんかなあ…とか思ってたけど」
未来もあんましそういう分野に触れてはいない。スマホも持ってないし…ゲームはあるけどほとんど明夫専用だし。
「あり得んのですよ…かしこなら…かしこなら…貯めにためていたちしきもなにもかも全部ぶっこみます…ねえ？ まきもそうじゃないですか…？」
「え？ あたし？」
「じぶんのおもいのままの世界ですよ…？ 恒星間飛行もクリーチャー形成もおもうがままなんですよ…？」
「お、おう…」
「じぶんでカチンコ鳴らすよりも…ふふふ…さらにじゆうどのたかい世界が…まきのものになるとしたら…？」
「おほ…おう…へへ…いいな、それ…」
「かしこなら…かしこの今書いてるあの世界のはなしを…」
「へへへへ…いいねえ、あたしの書きためた脚本が火ぃ吹くぜえ…？ 密室ミステリがいいか、むしろ香港アクション…それとも…」
…ふふふふふ…
「…なんだかあの頃の今日子さんを見てるみたいだね」
やれやれ、と羽佐人。
「…そうなの？」
「ああ。あれは…そうだ、先守が生まれた頃くらいだったかな。うん、ゲンゾーさんとも会っていたからそういった話は聞いていたんだ。でも今日子さんが本気…と言っていいかな、そう、本気で『世界を創る』って宣言したのはそのくらいの時だったかな…」
