未来にとっては日常の、いつものことだったりする。
ここんとこはいつも机の上（とは言っても勉強の邪魔にならないように端っこの方）に置いてある。時間ある時にはぱらぱら眺めていたりして。何が書いてあるかはなんとなーくは分かるようになっているのだが…単語の意味やら言い回しやらがややこしくて内容がよく分からない、理解できないのでそのまま文字列を眺めているだけ、なのだがそれでもいつも当たり前に存在してるモノである。
だから、フツーに
「ほら、これでしょ？」
と差し出したのだが…。
「未来…」
「お。ねーちゃんすげー」
「なかなかのわざ、というやつですねこれは」
「みき…」
両手を肩くらいにまで上げて、軽く首を横に振って見せる…真記
「あんた…」
「ん？」
「何もないところにさも何かあるように差し出して見せる。うーん…これはたしかに技、というやつですなあ」
いやー、あの映画のあのシーンがどう、とかこの作品のアレが…とかかしこと一緒になって何やら議論？始めてしまうのだが…？
「え？ ちょっと、何言ってるの？ ほら、ここにあるじゃない。これが申請書でしょ？」
右手に持っているソレを左手で軽く叩いて見せるのだが…。
「やだ。みきこそ何言ってんの？ 何もないじゃん、そこ」
「…ガーフには…見えてるのかい？」
『いや。私にも見えてないね。でもミライの言い方だとどうにもウソのようには見えないねえ…ねえ？ 眷属さん？』
『…この場にいる存在の中ではミライさんにしか認識できないようですね…』
ふ、と笑みをたたえたようにも見える。
『…さすがですね、いやはや』
『何だって？』
『…いえ何でもないです、こちらのことです。しかしこれでは話が進まないようです。…ここは自分の一存で一時的に認識権限を下げます。それなら皆さんのような存在でも申請書を認識できるでしょう。その後はお任せしても…？ 何か策がおありのようですし…？』
『まあ、そういうことならね。やるだけはやってみようかね…？』
とん、と床を蹴って未来の背中から…肩の上へ。肩の上まで来て初めて未来が気づくことができたくらい、音も感触もない。
そこで右前脚を中空に掲げて、軽く、ごくごく軽く一回転。
正に爪の先が描く軌跡は円そのもの、だが…その航跡に沿って光の輪も生まれる。それは先ほど出した世界を覗く？ための輪にも見えなくもないけども、ここにいる誰もが（啓児やガーフですら）感じ取っている。…何か…空気の感触が…変わった…？
そしてその一瞬、皆は同時に同じ感覚に陥る。例えるなら整備の良くないエレベーターに乗ってしまって、階に止まった、その瞬間の…胃や脳へのなんとなくの…違和感。
『…あまり長くはできませんが、これなら申請書くらいは認識できるでしょう…？』
『あ、ああ…これかい、申請書てのは…』
「なー、なんだか、フ、フツーのパンフってかんじ、ですねえ…あははは」
「父ちゃん、オレ…なんか気持ち悪くなってきた」
「明夫…？」
膝を付いてしまうしまう明夫を羽佐人が支える。どうやらあまり良くない状態にみんないるようだ…？
でも未来にはなんとなく分かる。この世界は先天世界（と思われる世界）。誰かが創った後天世界ならまだしも、さすがにキュリオスの眷属たるイントでも自由に力を使いこなせるとは思えない。だから…
「ね、イント。もしかして…遮断した？」
『…ご明察。さすがですね、やはり』
力が及ばないのなら及ぶ範囲を無理やりにでも創ってしまえばいい。この部屋にこの世界からの力が及ばないよう、結界のようなものを張ったのだろう。
「だから、ね…」
「みみみ、みき、あんた…よく平気ねえ…なんか、あたしも、ちょっと…」
…平気じゃないんだけど、ホントは
何しろ手にしている申請書。他のみんなにはパンフレットか何かのような、いつも彼女が見ている薄い本のように見えているのだろう。しかし…今手にしている申請書、と呼ばれる物体には。
…目ん玉あるんですけど…おっきなのが、一つ。それも、なんか、わたしをじっと見てる…
