…そんなカンタンにいくかなあ…
正直なとこ、そう思うのだが。しかし妙にテンションが上がり切っているガーフを見ていると（どっかの童話みたいにくるくる踊っていたりするのだ）そんなこと言い出せそうもない。
…それに…
「ねえガーフ。ところでコレ…何に見える？」
『何言ってんだい。それが申請書だろ？ シ・ン・セ・イ・ショ。ただの薄っぺらい紙の束じゃないかい？』
…やっぱりここまでは見えてないか…だいじょぶかなあ…
ぎょろりと目玉が笑ったような気がした。未来の目には手元のソレはまだグロ申請書のままなのである。つまりはこっちが真の姿、ということになるのだろうか。
「とりあえず。何か良い作戦でもあるんでしょ？」
『聞きたいかい？ 聞きたいかい？ そうだろうねえ、そうだろうねえ、うんうん』
だんだんウザったくなってきた未来だが。しかし何か手がある、というのならそれに乗らない手はない。
『なに、カンタンなことさね。申請書さ。ソレから辿ればキョウコのところにきちんと行き着くことができる。違うかい？』
『…それも一つの手ですね…』
『だろ？ だろ？』
『…ガーフさんは結構な腕前の旅人とお見受けしますが。思い入れのある品物から特定の存在の正確な位置を割り出す、ということはお得意で？』
『そこまで得意ってわけじゃないけどね。でもできないこともないじゃないか？ 何しろキョウコが持ってた紙の束なんだろ？ ソレ？』
『…ああ、申請書。申請書は貸し出し制なんですよ。一応現在はフクダキョウコが所有している、ということになってはいますが今、かなり力が弱まってますからね…どっちかと言うと前の持ち主の味が…うーん、ちょっと強めに出てますかねえ…？』
どっちかと言うと、どころではない。
さっきから未来の手の中で目玉が勢いよくあっちこっちを見回して睨んだり大きく見開いたりしているのだ。しかもなんだか触手っぽいのが手首にまで伸びてきている。…正直、こんな物体、さっさと放り出したいのだが…今、そんなことしたら事態がややこしくなりそうなのでなんとか我慢していたりする。
『…自分にもただの帳簿にしか見えないのですが。まあ、眷属なんてのはそんなもんですが…』
にや、と未来に笑みを送る。
『…関係者には一体どんな風に見えているのやら…？』
『じゃあ…無理ってことかい…？』
『…そうは言ってないです。着眼点としては有効かと。ただしもっとその存在に即した、オンリーワン的な要素でないとなかなか難しいような…』
「…ヤマアジサイ…？」
ぐったりしていた明夫を介抱していた羽佐人が、ふと、つぶやくように言う。
「今日子さんのオンリーワン、と言えば…たくさんあるけど…今はヤマアジサイじゃないかな？ ほら、物語の中にも出てくるんだろう？」
「うん」
「それが重要な要素の一つ、ということになりませんかね…？」
『…正解ですね。さすがに最も近しい関係者、といったところですか。ミライさん？』
「え？ は、はい、わたし？」
思わず自分の鼻を指してみたりして。
『…方法をお教えしましょう。なに、そんなに難しくはないのですよ。物体の存在意義を正しく認識できていれば、まあ、大丈夫かと。ここに現物がない…いえ、それは大した問題ではありません。意識下においての実在性を連結させればよいだけなのですから…』
「えっと…？」
『…カンタンですよ。少し、意識の方向性を修正して。そう、そんな感じで良いのです。カンタンでしょ？ ではこれで追跡の準備が整った、ということで…』
『いやいやいや。ちょっと待っとくれよ…そういうの、私がやろうかね？』
『…え？ フクダキョウコと近しい存在の方が確実性が上がるかと。ここはミライさんに任せてしまった方がよろしいかと思われますが…？』
『それは…うん、まあ、そういうのはあるよ？ あるけど…それは…』
…まーたガーフのヘンな意地っぱりが出てきたなー…
こういうとこ、あるよなー、とか思ってしまう未来だったのだが。
『じゃ、じゃあ…オーパスも連れて行ってやっとくれな。何かとサポートができるやつさ。使えないなんて言わせないからね？』
…そう来たか
『…いかがしますか？ ミライさん？』
「七咲くん…」
啓児を見てみると。やや硬い表情ながら、一つ、うなずいてくれた。
「じゃあ…それで、いきましょう…！」
