『…なるほど。それがあなたの答えなのですね…』
「はい」
『…ではキュリオスについてですが。あなたにとっての戦うこと。それと同じように存在すること。それがキュリオスが存在する理由の一つと言えるのです…』
「存在することが存在する理由…？ なんじゃそりゃ」
「禅問答だね、まったく」
苦笑いして見せる羽佐人。
「そのキュリオスというのは…何だろう、どう言えばいいのかな…君たちの上司、というわけではないんだろうね？ 君の言い方からすると？」
『…はい。この世界のあなた方の認識しているような上司、つまりは業務に関して上位の存在、というわけではありません…』
「でもいないと…いや、ないと困る？」
『…別になくたって困りはしないのでしょう。ただ…仮にでもキュリオスが消滅、ということになれば我々も消滅してしまいますが…』
「それ、なくなったらめっちゃ困るって展開じゃん」
『…？ 困るも何もなくなったらオノレ、という存在もろとも消滅してしまうのですよ？ 困ることも何もないのではないですか…？』
「え、そりゃあ…まあ…」
「ネコさんネコさん。あなたがたにとってのキュリオスって…あったほうがもちろんいいんだけど、なくてもべつに困らないかも…とかそんなもの、ってこと？」
『…はい。おおむねそんなとこですね…』
「もしかして。なくてもべつに、っていうのはその存在が大きすぎてよくわかんないからなんじゃないの？」
かしこのそんな問いかけに、ちょっと、考え込むような仕草になる…イント。
『…ふーむ…なかなかに興味深い解釈ですね、それは。たしかにキュリオスとは我々にとっても存在存続に非常に影響を及ぼす、不可欠なモノではあるのですけれど、別にあんなんなくたって別にどうにかなるか、と、そんなモノでもあるわけで…』
「ちょくちょく不穏だな、この猫も」
「この猫も、ってどういう意味だい？」
『…うん、なるほど。これは一つの解かも知れませんね。…ナナサクケイジ、あなたの問いに一つの答えを差し上げましょう。…アレは我々が存在させ続けるために存在しているのです。あんなのでも何かに役に立っているのですからね、我々もそういった努力を怠ってはならないでしょう…』
…結局よくわからん…
と言うのが一同の感覚だったりする。
「…多分だけど…イントも実際にはよく分かってないんじゃないかとわたし、思うんだけど…」
「…僕も、そう思う。本当は聞かない方が良かったのかな…」
「さ、それはそれとして作業を始めちまおうじゃないか…ミライ、ケイジ、準備はいいね？」
いいねも何も二人とも寝転がっているだけで、これならいつも未来が寝る時と変わらないような…？
…いや、なんか違うなー…
ナンタイコウに渡る時と同じように、ということで申請書を枕の下に敷いている。…敷いている、というのは未来以外の者たちが見た場合の話である。未来にとってはうねうねした触手がもぞもぞ動き回る感覚が枕の下から伝わって来たり、ついには口までできたのか『はー』とか『うー』とか地の底からでも聞こえてきそうな低い唸り声まで聞こえてきているのが現状なのである。
ついでに目が伸ばせるようになったらしく、枕の下から、ちら、ちら、と目玉（やたら薄っぺらい）が這い出てきては…さっと引っ込む、というを繰り返していたりする。…こんなもん、さっさとどっかにやってしまいたい、というのが本当のところでもある。
「頑張ろう、福田さん」
そういう事情まではもちろん知らない啓児は真剣な表情でそう言ってくれるのだが。
「う、うん…」
としか返せない。正直、気になりすぎるのだ、アレが。
「よし。まずは一回目、行ってみようか。えーと、枕をぽんぽん、だったっけ？」
「…自分でやれます」
ちょっと恥ずかしい。真記やかしこの目の前で、というのは。
「じゃあ…それで。…ところで…オーパス？」
「うん？」
「いいね？ 分かってるね？ いざとなったら…」
