「どうしたの？」
「いや、何でもないよ。さあ…行こう！」
「あ…ちょっと待ってくれ、未来？」
「…父さん？」
娘とその連れ？が寝ているベッドを一度、覗き込んでみた羽佐人だったのだが。寝転がったまま、首だけ上げて見せる未来と啓児である。
「その…なんだ。…えっとね…うん、よろしく伝えてくれ」
「よろしく…」
「七咲くんも頼むよ。よろしく、伝えてくれ…その…今日子さんに」
その瞬間。二人の身体は一気に跳ぶ。
実は何度も練習していたのだが、一度も成功していなかった。
生えぬきの旅人である未来と努力は積んできたがまだまだ未熟な旅人である啓児には相応の「差」がある。そのままの二人なら完璧にシンクロしての渡りはまず不可能。どっちかがどこかに取り残されて片方が別の世界に跳ぶか、場合によってはケガに繋がることもある、そういう「差」になっている。
それを埋めることができるのは…熟練を積んだ旅人のサポート。
この場合は未来が「主」となる。そもそも枕ぽんぽんでナンタイコウに渡れるのはクリエイターであるキョウコが設定した存在（先守・未来・明夫）のみ。その三人の中で実際に渡ることができる未来はキョウコに近しい存在、ということになり…さらに近くに、つまりは「今」の「キョウコの居場所」に近づくことも可能になる可能性が高い。
一方で啓児にその資格はない。熟達した旅人なら相手に合わせてシンクロして、その行く先になんとかついていく、ということもできるだろう。が、今の啓児にそこまでの力量は…ない。
「さ、やってみようか打ち合わせた通りに。…意識を合わせるんだ。いいね？」
ガーフがやろうとしているのはいわば「疑似シンクロ」とでも呼ぶべきもので…熟達の旅人同士のシンクロまでには至らないけどそれに近い、いや、近づけるようガーフがサポートに徹する。
「呼吸を合わせようか」
二人が同時に渡ろう、とするその時にガーフも渡らせよう、と思いを込める。
「それ、イチ、ニ、サン…！」
…と、カンタンにいけば良かったのだけど。これがなかなかうまく合わない。
…いける
「よろしく、と」
羽佐人のその声で二人は無意識に手を握る。そしてガーフも目を閉じる。
…いけ
二人の身体はそのままベッドに沈んでいくように消えていってしまった。
「いっちゃった…」
「うまくいけばいいけどねえ…どうなのさ？ その辺？」
「まだまだ分からないよ。私にできるのはここまで、ってことでね」
ため息ついてみせるキジネコ。
「あとは若い二人にお任せ、ってとこだね」
………
「福田さん」
「うん」
「もう一度、やってみよう」
「…うん」
ガーフのサポートなしでどこまでやれるか分からないのだけど…
「どんなとこでもここよりはマシだよ」
「そうだね…」
目の前をどこかで見たような気がするイカっぽいヒト？たちが行き来している。街並みはどこにでもありそうなのに、行き交うヒトたちがイカっぽい。…そして
…このにおいが、ちょっと…
あのミカンとチョコレートに混じった匂いが鼻を攻撃してきて止まらないのである。
